コア・バリュー経営とは、企業がコア・パーパス(社会的存在意義)とコア・バリュー(中核となる価値観)を明確に定義し、これらの原則を日々の意思決定や行動の指針として徹底していく経営手法です。これにより、組織全体の結束力を高め、共通の目的の達成をより効果的に行うことが可能になります。この手法は、高度なテクノロジーやシステムを必要とせず、どんな企業にでも導入できる実践重視のアプローチである点が特長です。
組織の価値観を経営の基盤とし、行動指針として用いる点では理念経営と共通していますが、明確な違いも存在します。理念経営が主に経営陣に焦点を当てるのに対し、コア・バリュー経営は働く人全てを対象とするアプローチだからです。
コア・バリュー経営を導入するには、まず組織のコア・パーパスとコア・バリューを明確に定義し、明文化した上で、それを組織全体に浸透させる仕組みを構築する必要があります。例えば、採用、教育、評価といった会社の主要な仕組みにコア・バリューを組み込むことで、組織全体に価値観が認識され、日々の活動の指針となります。特に近年のワーク環境においては、現場での判断の必要性が高まっていることから、組織が重要とする価値観、すなわちコア・バリューの重要性は一層増しています。
コア・バリュー経営の導入プロセスとは?
コア・バリュー経営は、「コア・バリュー(中核となる価値観)」を会社の基盤とし、それを軸に経営のあらゆる「仕組み」を構築・運営していく、人間主体の経営手法です。この経営の目的は、会社の価値観を従業員の大半に浸透させ共有することで、事業目的の実現にふさわしい「戦略的企業文化」を意図的に築き上げ、会社の企業力を飛躍的に向上させることにあります。
コア・バリュー経営を実践するプロセスは、まず経営の土台を固め、次にそれを組織の仕組みに落とし込み、最後に全社に浸透・定着させるという3つのステージから成ります。
第一段階:経営の土台となる価値観の定義
まず、会社が「何のために存在するのか」という、利益を超えた目的である「コア・パーパス(社会的存在意義)」を明確に定義します。コア・パーパスは、顧客や従業員を含む生活者への価値やメッセージを含み、働く人の心を奮い立たせ、誇りを持たせるようなものであるべきです。このコア・パーパスが、コア・バリューを定める上での出発点となります。
次に、コア・パーパスを達成するために、従業員が日々の意思決定や行動の基準とする「コア・バリュー(中核となる価値観)」を策定します。コア・バリューは、トップや経営陣の独断ではなく、従業員の声を聞き、できるだけ多くの社員をプロセスに巻き込むことが、浸透度を高めるうえで極めて重要です。この価値観は、シンプルで分かりやすい言葉で表現し、特定の行動を義務付ける「規則」ではなく、各自が自分で考えて行動するための「規範」や「ガイドライン」として定めるべきです。策定されたコア・バリューは、その意味するところや具体的な行動例を明確にした「コア・バリュー文書」として文書化することが重要です。
第二段階:経営の仕組みへの組み込み
コア・バリュー経営の実践では、コア・バリューを軸とした「プラットフォーム」を会社内に築き、採用、教育、評価、報奨・賞与、社内手順など、従業員の行動に関連するあらゆる制度やプロセスにコア・バリューを反映させていきます。
特に重要な仕組みとして、採用においては、学歴や職歴だけでなく、会社のコア・バリューに共感し、文化的に適合する「文化適性」を最重要視し、採用の前提条件とします。また、評価の仕組みでは、通常の業務成果に加えて、コア・バリューの実践度を測る基準を設け、上司だけでなく同僚や部下も関わる多角的な360度評価を取り入れることが多いです。これにより、会社がコア・バリューを重視していることを従業員に伝え、実践を徹底させることに繋がります。
第三段階:浸透と定着
組織へのコア・バリューの浸透は、最も重要なステージです。「価値観の定義」や「仕組みへの組み込み」だけでは十分な効果を得ることができません。浸透プロセスでは、「認識」から「行動」、そして「習慣」へと移行するプロセスとなります。 「認識」の段階では、コア・バリューのカードを常に携帯したり、会議の冒頭で唱和したりするなどの工夫を通じて、従業員全員がコア・バリューの重要性を理解し、納得することが求められます。 「行動」の段階では、コア・バリューが意思決定の「判断基準」となるため、従業員は上司の指示を待つことなく個人の創造性や感性を活かしながら、自律して会社の方向性にあった判断や行動をとることができるようになります。浸透を促進するには、「コア・バリュー・リーダー」や「エバンジェリスト」という現場のリーダーたちが行動のお手本となり、牽引していくことが効果的です。会社の中にコア・バリューが浸透して実践が積み重なり習慣化されることで、組織の革新に繋がり大きな成果を期待することができます。
コア・バリュー経営はどのような経緯で開発されたの?
コア・バリュー経営は、日米間ビジネス・コンサルタントであり、アメリカの産業・企業を過去30余年にわたり研究してきた石塚しのぶ氏が、米国諸業界で突出する企業を研究し、その共通項を体系、仕組み化して開発しました。
「コア・バリュー経営」は、従来の経営手法が時代の変化に対応できなくなったという課題意識から生まれ、石塚しのぶ氏によって体系化・提唱された新しい経営モデルです。
1990年代以降、情報産業の発展と急速な技術革新により、インターネットやソーシャルメディアが普及しました。その結果、市場の主役は企業ではなく、個々の生活者へと移り変わり、「生活者主体の時代」が訪れました。
こうした環境では、上からの指示で動く階層的な組織や、「管理と統制」を重視した官僚的な経営では、変化のスピードや多様化するニーズに対応できなくなっていきました。
そこで企業に求められるようになったのが、社員一人ひとりが自ら考え、創造し、感性を発揮できる「自律的」で「参加型」の組織への転換です。
個人の力を最大限に引き出しながら、組織としての一体感を保つためには、ルールや命令による管理ではなく、共通の「価値観」を土台にした経営が不可欠だと考えられるようになりました。
この考え方のヒントとなったのが、石塚氏が研究したアメリカの先進企業たちです。中でも、感動的な顧客サービスで知られるネット通販企業「ザッポス」との出会いは大きな転機でした。(「ザッポス社CEOトニー・シェイの来日特別チャリティ講演」の様子)
ザッポスの社員たちは、「コア・バリュー(中核的価値観)」を日常的に口にし、それを行動や判断の基準としていました。
「コア・バリュー」という概念自体は昔からありましたが、ザッポスの革新性は、それを単なるスローガンにせず、「唯一無二の企業文化」を最も重要な経営戦略として位置づけ、全社員が実践できる仕組みを整えたことにありました。
石塚氏は、ザッポスや「スモール・ジャイアンツ」と呼ばれる優れた中小企業の成功事例を研究し、共通する要素を抽出しました。そして、企業の**「コア・パーパス(社会的存在意義)」と「コア・バリュー(中核的価値観)」を明確にし、それを軸に採用・教育・評価・業務運営などの仕組みを構築する**というシンプルで普遍的な手法として、「コア・バリュー経営」を体系化したのです。
成功事例としてはどんな企業があるの?
アメリカで靴やアパレルのネット通販業を営んでいるザッポス社は、コア・バリュー経営実践企業のうち最も有名なもののひとつです。2008年に石塚氏はザッポス社を複数回にわたって訪問し、「ザッポス・カルチャー」の競争優位要因をコア・バリュー経営の視点から読み解いた『ザッポスの奇跡』という経営書を上梓しました。
また、その他にも、サウスウエスト航空(航空会社)、エアビーアンドビー(オンライン・トラベル)、パタゴニア(アウトドア用品製造販売)、ジョワ・ド・ヴィーヴル(ホスピタリティ)、メソッド(CPGメーカー)、コンテイナー・ストア(リテーラー)、伊那食品工業(食品メーカー)、日本自動ドア(製造)、マテックス(卸業)などといった会社がコア・バリュー経営実践企業として数えられており、この面々からも、コア・バリュー経営が規模を問わず、多種多様な業界や業種に対応するものであることがわかるでしょう。成功事例の詳細を読む
どんな企業にふさわしいの?
コア・バリュー経営は、企業の規模、業種、現在の状況にかかわらず導入可能な組織変革・改善の手法ですが、特に導入が強く推奨され、大きなメリットを享受できる企業の特徴がいくつかあります。
この経営手法は、会社のコア・パーパス(社会的存在意義)とコア・バリュー(中核となる価値観)を明確に定め、これを日々の活動の判断基準とすることで、事業目的の達成にふさわしい**「戦略的な企業文化」**を意図的につくり上げる最も効果的な方法です。
特に中小規模の企業や組織にとって、コア・バリュー経営は導入しやすく、成果を期待できる手法です。会社が小さいと、コア・パーパスやコア・バリューの浸透が容易であるという優位性があります。また、中小企業は規模が小さいゆえに、変化の打撃を敏感に感じ取りやすく、危機感をバネに思い切った決断を実行に移すことができます。さらに、売上規模ではなく、顧客や社会に提供する価値を重視し、偉大な会社になることを目指す「スモール・ジャイアンツ」にとって、コア・バリュー経営は不可欠な戦略となります。
事業の段階や状況でみると、コア・バリューの策定は、会社が小さいうちに浸透させやすいため、創業時や早期段階(例:ザッポス社は社員数100人を超えたあたり)に、早ければ早いほどよいとされています。また、二代目や三代目社長が事業承継を控える際、世代間のギャップや年長の社員からの抵抗に悩まされるケースがありますが、コア・バリュー経営は大変役立つ確かな手法です。社長個人の主観的な意見を通すのではなく、共通の「価値観」を基準に意思決定をすることで、皆を納得させ、リーダーシップを発揮しやすくなります。組織の健全性が課題となっている会社や、社員が増えて組織体質に変革の兆候が見える会社、市場の変化に伴い新たな差別化を追求する必要が出てきた会社にも適しています。
特に顧客との接点が重要となるサービス業では、多様化する顧客ニーズに対応し、唯一無二の顧客体験を提供し、コア・バリューが行動規範として血肉となっていることが必要です。現場の従業員がマニュアルではなく、コア・バリューに基づいて自律的に判断し、行動することが求められるからです。
組織文化の側面では、グローバル化やライフスタイルの多様化により、職場で価値観の多様化が起こっている現代において、共通の価値観(コア・バリュー)を軸に組織を束ねる仕組みを必要とする企業に重要です。会社のコア・パーパスやコア・バリューに共感し、深く関わる(エンゲージする)従業員を育成することができ、価値観のマッチした人材で組織が構成されることで、従業員の満足度が高まり、離職率の低下につながります。
コア・バリュー経営は幅広い業種や状況に適用可能であり、大企業であっても、部門(例:コンタクト・センター)や部署単位でプロジェクト・チームでの実践が可能です。
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