本記事は、コア・バリュー経営協会会員向け記事として作成されたものです(2017年7月20日)。

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価値主導型経営との出会い

私が会社を設立したのは2006年のことでした。2006年のアメリカにおいて、製造業という「アセット集約型」の事業を始めるのは容易なことではありませんでしたが、私には夢がありました。ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイ社のように、土台となる事業でお金を儲け、得た資金で他社を買収し、投資ポートフォリオを軸に成長する会社にしたかったのです。2009年には製造拠点を二つ構えるまでになり、目覚ましい勢いで成長しました。製造コストを抑えつつ、優れた顧客サービスを提供する会社として知られるようになりました。自称、「製造業におけるサウスウエスト航空」とも呼べる会社に成長したのです。

2013年の時点で成長はまだ続いていましたが、自然な勢いはもはや感じられませんでした。二つの製造拠点がそれぞれ異なる文化を形成し、生産性に陰りが見え始めました。二つの拠点がお互いを支え合うのではなく、敵対し競い合うというネガティブなムードがありました。コストは上昇し、文化のぶつかり合いが顕著に感じられました。数値の上では依然として成長し、利益も出していましたが、「健全」な環境だとは思えませんでした。そこで我々経営陣は会社の外に目を向け、新しい時代に合った経営のやり方を模索し始めたのです。

そうして出会ったのが、スモール・ジャイアンツと、価値観主導の経営手法でした。2014年のことです。アメリカ随一の健全で、活気あふれる、価値主導型ビジネスの確立を目指した旅路はそこから始まりました。

最初に着手したのは、我々のビジョンに賛同しない株主から持ち株を買い取ることでした。こういった株主は短期リターンばかりにこだわり、20年先を見据えて会社に投資するなどという気持ちはありませんでした。ましてや、社員を中心に、幾世代にも渡り存続できる会社を築くことへの理解はなかったのです。こうした株の買い取りは年内(2014年)に完了しました。

次に、製造業務のノウハウを熟知したCOOを探すことに着手しました。私が企業文化の育成に集中できるよう、経営チームを固めることが必要でした。

そして次に、二つの製造拠点を一つのロケーションに統合することに着手しました。一貫性のある堅固な企業文化を構築するためにはそうすべきだと判断したからです。かなり大がかりな移設でそれ相応の計画と準備を要しましたが、もともと主要な製造拠点を置いていた場所に新たなスペースを確保することができました。

企業文化の基盤を築く最初のステップとしては、明確なコア・パーパスと確固たるコア・バリューを定義し、そして、経営陣から社員へのコミュニケーションや、組織構造、褒賞構造を透明かつシンプルなものにすることが必要だと判断しました。そして、その遂行に着手しました。

コア・パーパスを定義する

幸運なことに、私たちの会社は製造業を「天命」と考える情熱溢れる経営陣と現場の中核となるチームに恵まれていました。会社のコア・パーパスを定義するにあたって、それが崇高な目的として価値あるものであり、皆の気持ちを奮い立たせ、行動を起こさせるものであるべきだと考えました。我々の会社が他社から一線を画す点、我が社の「特別」は何か、を考えたところ、答えはすぐに明らかになりました。それは、我々が「製造業」を心から愛しているということでした。それもただ「製造業」を愛しているというだけではなく、「アメリカの製造業」ということに誇りを抱いているということでした。私たちの社員の80%がアメリカの根幹ともいえる田舎の農村地帯の出身です。幼い頃から夜明けから日暮れまで懸命に働き、技術面での創造性と機知に富み、機械のことなら誰にも負けないというような人たちばかりです。また、起業家精神と、次世代を担う人材を育てたいという強い願望と情熱も持ち合わせています。

何通りか作成してみた後に、社員の心に最も響くものをひとつ選んで推敲を加えていきました。そして最終的に、「起業家精神を通してアメリカの製造業を活性化する」に辿り着きました。これが、企業としての我々の人格や、私たちが何に情熱を抱いているのか、そして、どこに焦点を置いているかを最も的確に表すものです。私たちは、21世紀のアメリカにおいて、製造業という業界で、起業家精神を重んじる環境に働いていることを誇りに思っています。そして、世界の誰にも負けない高品質な製造を追求していくことに大きな喜びを感じています。

コア・パーパスを定義したら、次はそれを実践するとどうなるか、ということについて討議しました。ニューヨーク州の田舎の中小企業が、「アメリカの製造業を活性化する」にはどうしたらいいか。大それた目的ではありましたが、これを実現するには私たちにしかできない独自の方法でやるしかないとわかっていました。以下の方法で、「アメリカの製造業を活性化する」と決意しました。

1.次世代の人材を雇い、育てる
2.継続的改善、最新技術、垂直統合、サプライ・チェーン革新を通して、誰にも負けない低コスト構造を維持する
3.超一流の顧客サービスを提供する
4.工場、機械、ソフトウェア、人材開発に投資する

これら四つのことを実践し続ければ、世界中のどの製造業者にも勝り、顧客に選ばれ続ける会社になれるだろうと考えました。こうした目に見える、具体化しやすい方法で「アメリカの製造業」を価値ある選択肢としてアピールしていけると考えたのです。

コア・バリューの定義

コア・バリューをただの「壁の上の標語」にはしたくありませんでした。社員が日々、それに基づいて生活する、それでなくては意味がないと思いました。コア・バリューを定義するにあたっては、一種変わったアプローチをとりました。機械工、配送担当者、CFO、営業職、技術者など、社内の異なる部門・部署、役職・職種から12人を選抜して、会社のコア・バリューを定義する会議に参加してもらいました。2014年の夏のことです。一回につき2時間の会議を4回に分けて行いました。

第一回目の会議では、各自10分くらいを費やし、社内で「最も尊敬する人」で「お手本にしたい人」を1名から3名、具体的な名前を挙げて考えてもらいました。ルールは二つだけ。「自分を選ぶことはできない」と、「会議に出席している人の中から選ぶことはできない」です。

そうした後に各自の発表を聞くと、面白いことに、三人の社員の名前が何度も繰り返し挙がってきたのです。ジョエル(機械工/現場監督)、フレディ(機械調整士)、ラリー(CFO)でした。次に、15分を費やし、これら三人の人物について「尊敬する要素」を、価値観の言葉で表現してみました。そして最終的に次の五つの特性/価値観に絞り込みました。

敬意:顧客、チーム、共同体に敬意をもって接する
学び:知識と経験の蓄積から学ぶ
情熱:顧客、チーム、そして会社のビジョンへの飽くなき熱意をもって取り組む
友情:自分ではなく他者に焦点を置く
起業家精神:問題を次々と解決する

その夏、私たちは、もし会社の全員がこれらのコア・バリューに従って日々行動すれば、真に特別な会社ができるだろうと確信し、これを誓いました。実際、会社で働いている人たちをお手本にすることで、ただの概念に終わらず、「どういう行動をすべきか」が具体的にイメージできるようにしたのです。

透明性の追求

2015年の春、私は当時総勢75名の社員を10人一組の7チームと5人構成の小さなチームに分け、学歴や役職を問わず、全社員を対象とした教育プログラムに着手しました。6か月間をかけて、損益計算書やバランス・シート、キャッシュ・フローや負債管理、税制など、会社の財務の基本知識を徹底的に教え込みました。個人のお給料を「収入」、そして小切手帳を「会社の帳簿」に見立て、ゲーム形式にして、楽しく、かつ実用的に学べるように工夫を凝らしました。

プログラムが一通り完了すると、月に一度全社会議を開き、その席で前月の売上、経費、利益や収入についてのデータを共有するようにしました。また、予算や前年の実績に照らした詳細な業績報告書をまとめ、業績そのものや、企業文化、そして事業課題に関する説明書きを添えてこれも月に一度発行するようにしました。この報告書は全社員に配布され、経営チームと部門・部署長が集まってそれを吟味するようにしています。財務に関して全社員が同じ情報を共有することで、社内にオープンで協力的な体制ができています。

シンプルなアプローチ

会社も人も、自分が他者に比べて飛びぬけている「ひとつのこと」を見つけ、それに集中できる体制を築いていくのが最善の策といえます。「シンプルなアプローチ」というのはそういう意味です。

会社のCEOとして、私にとっての「シンプルなアプローチ」とは何かと考えてみました。先に述べたように、会社を設立した際、私には夢がありました。製造業として会社の基盤を築き、得た利益を他の会社に投資して、「ポートフォリオ会社」として資金を増やしていくという夢です。

しかし、いろいろと考えた結果、私の一番の強みは、製造業を経営することだとわかりました。投資も「好き」ではあるのですが、自分が一番得意とする「製造業の経営」にフォーカスして、規模は小さくても偉大な「スモール・ジャイアンツ」を築きたいと思ったのです。

コア・パーパスやコア・バリューを基盤とし、透明性の高い会社をつくるために、会社組織や、経営陣から社員へのコミュニケーションや、報奨制度をシンプル化する必要がありました。結果として、次のような改革に着手しました。

1.組織構造:社内の層を少なくし、報告網のシンプル化にフォーカスして、社内の声が届きやすくなるようにしました。現在は、ピラミッド型組織からネットワーク型組織への移行に取り組んでいるところです。
2.役職・職種名と職務内容:かつては、ひとつの職種につき、4ページから5ページにもわたる長い職務内容説明がありましたが、それを簡素化し、30語未満、文章にして二文以内にまとめました。そして、役職や職種名も、実際の仕事内容を反映するようにしました。例えばCEOは「リーダー(Leader)」、COOは「オペレーションズ(Operations)」という具合にです。
3.ゴールと褒賞制度:個人のゴールと褒賞は次の三点に基づくものと定義しました。1)顧客に対する価値創造、2)職務内容に記されている役割の遂行、3)コア・バリューと企業文化の促進。社員ごとに責任が異なるため、その責任に応じて褒賞基準も異なるものとし、その基準を一つに絞りました。例えば、COOの場合、粗利益に対して責任を負い、それを基準に褒賞が与えられることになります。
4.コミュニケーション:全社を通じて、シンプルかつ一貫したコミュニケーションのプロトコルを確立しました。具体的には、週次の測定数値の発表、月次の全社会議、月次の財務報告書の発表と配布、月次のコーチング・セッションがあります。

まとめ

2016年6月30日は私たちの会社にとって特別な日でした。価値主導型企業への変革を誓って以来2年目の記念日だったからです。この二年間、業績や財務面で優れた成果を上げるばかりではなく、「仲間意識」や「友情」が溢れる組織をつくりたいと願い、社員とともに切磋琢磨してきました。

そのためには大々的な組織構造の変革が要求されました。健全な企業文化を育むための土台を築き、コア・パーパス、コア・バリュー、透明性、シンプルというコンセプトに基づき図面を描いてきました。

2015年12月、全社会議の際に、私は社員全員に目を閉じて、各自が「働きたい」会社を思い描いてもらいました。アメリカの製造業を活性化する会社、活気あふれる職場環境で次世代を担う人材を育てる会社、皆が常に学び、お互いを尊重し、友人として接する会社、情熱と笑顔が溢れる会社。皆が力を合わせて会社の業績向上のために働く会社。「数値」が何を意味するのか、なぜ、それが重要なのかを皆が理解している会社。顧客に最高の価値を提供するために皆が一丸となって働く会社。そんな会社を思い描きつつ、私たちは価値主導型企業への道を歩み続けています。

*注:本記事は、米スモール・ジャイアンツ・コミュニティによるインタビュー記事に基づき、ダイナ・サーチが独自の視点や見解を加えて作成したものです

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