本記事は、コア・バリュー経営協会会員向け記事として作成されたものです(2020年2月)。
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面接のプロセスが終わり、採用通知を送付して、一仕事終わったと安堵するのは極めて普通でしょう。しかし、数週間後には、新しく採用された社員が期待に胸を躍らせ、会社の扉をくぐります。さて、会社としては、新しい社員を迎える十分な準備ができているでしょうか。

採用プロセスが終わっても、それですべてが終わるわけではありません。新入社員を迎える「オンボーディング」はほんの第一歩にすぎません。

オンボーディングとは、新入社員が新しい環境や役割に一刻も早く慣れ親しむことを助けるプロセスのことを指しますが、その重要性は見落とされがちです。採用担当者の多くは、「的確な人材」を探すことに全エネルギーを注ぐばかりに、新しい社員が出社して、そして何が起こるのか、そのプロセスについては気にも留めません。

効果的なオンボーディングは会社によっても異なるため、すべてのケースにあてはまる「オンボーディングのやり方」は存在しませんが、早くからそれを考え始めることに価値がありそうです。

プレ・オンボーディング
新入社員のオンボーディング・プロセスは、十分な余裕をもって計画され、開始されるべきものです。必要書類の準備や、社内のデータ管理用のアカウントの設置はもちろんのこと、新入社員が読んでおくべき資料や本などがあれば、それについても事前に通知されていなくてはなりません。

もし、採用面接の期間中に、スキル査定の試験などが行われていたら、その結果は新入社員の出社初日以前にリーダーシップに伝達されるべきです。そうすれば、新入社員の長所や短所、コミュニケーション・スタイルなどを把握したうえで、初日の準備をすることができるからです。新入社員が、どのように仕事をスタートすべきか、サポートが必要な点はなにかなどを考慮して、初日のプランを立て始めることができます。

新入社員は突然出社してくるわけではありません。しかし、あたかもそれが予想外のことのように振舞い、準備をせずに「初日」に臨むリーダーが多いように感じます。そのため、コンピューターや、電話やなどの備品や環境の準備が間に合わず、初日から新入社員が「会社の一員」として歓迎されていると感じる機会を逃してしまうのです。特に新しい備品を調達しなければならない場合には、その手配や承認プロセスに数週間を必要とするケースもあるので、できるだけ早く準備を始めるのが得策というものでしょう。

最初の一週間
新入社員の「第一日目」は、社員の「ライフサイクル」において極めて重要です。出社一日目がどんなものであるか、それが会社の印象を左右し、また、その後の会社生活に対する社員の意気込みを良くも悪くも左右します。第一日目から、会社に対して強烈な帰属意識を感じる人もいるでしょうし、また、周囲の人の態度や初日の活動によっては、先が思いやられるとやる気を削がれる人もいるでしょう。新入社員に対して「ポジティブ」な印象を与える良い機会であるからこそ、初日のエクスペリエンスは慎重深く、戦略的にデザインされるべきものですし、そのアウトカムに新入社員が所属するチームや周りの人が与える影響は大きいのです。

多くの会社は労務規則や福利厚生の確認など、手続き的なことばかりに気をとられて、会社の歴史やビジョン、ミッションやコア・バリュー、会社そのものやその商品・サービスについてのその他諸々の基本的なことなど、「文化的」なことについて時間を割くことを忘れがちです。新入社員に企業文化に触れてもらうことや、あらゆる方法で「自分は歓迎されている」と感じてもらうことは小さなことのようですが、それらがもたらす心理的なインパクトは侮れません。また、新入社員がどんな仕事に従事するのか、そして、新入社員からどのような成果を期待するのか、30日後、60日後、90日後に具体的なゴールを定めて、リーダーの間で共通理解をしておくことが望ましいと思います。

リーダーとしては、チームの全員に、いつ、どんな人が入社してくるのか、その人の経歴や、組織の中でその人が担う役割についてあらかじめ伝達しておくことが必要でしょう。また、新しい社員に一刻も早く組織に慣れ、力を発揮してもらうためには、初めの一、二週間のうちに、組織の中で「キー」となる人たちと会って、自己紹介をし、話をする機会を設けることが必要です。そうすることによって、新しい社員は、組織の中の人間関係を築き、また、職場の力関係について身体で理解することができます。

また、最初の一、二週間のうちに、採用面接の際に行われたスキル査定の結果を新入社員自身とあらためて見直し、協議の上で不足しているスキルを学んだり、補ったりするためのプランや、その道筋を話し合っておくと、オンボーディング・プロセスを円滑に進めるのに役立ちます。

それ以外には、最初の一、二週間は、新入社員が会社の雰囲気を感覚的に掴んだり、会社のゴールや戦略上の目的、そして経営側の期待など、採用面接の際に触れたトピックについてより深掘りをして話し、理解を深める機会に費やすべきと思います。

長期的なオンボーディング
効果的なオンボーディング・プロセスには3カ月から6カ月を要します。これをよく肝に銘じていてください。

先に述べたように、最初の数週間は会社のゴールや文化に関する理解を深めるのに費やされますが、それで終わりではありません。その後数カ月間にわたり、社内でキーとなるステークホルダーとの関係を築いたり、その中で仕事に対する自信や信頼を築くためのプロセスが続きます。その傍らで、会社の戦略についての理解も深めていきます。

社内の主要ビジネス・リーダーや、顧客、役員、そして社外の取引先に会うことは、新しい社員が人間関係を築き、一刻も早く自分の与えられた役割において成果を上げ、会社に対する価値創造をするうえでの足がかりになります。

どういったオンボーディングの方法をとるかは会社次第ですが、いずれにしても、入社後30日目、60日目、90日目を目安に経過の振り返りを行うことで、問題を発見したり、何らかの行き違いがあれば軌道修正をしたりできます。採用面接の際に新入社員が聞いたことと、実際に経験していることのギャップがあるか、あるとしたらどんなことなのかを確認しつつ、会社と新入社員との間に生じがちなストレスや不満を早期に摘み取る効果的な方法であるといえます。

オンボーディング・プロセスのカスタマイズ
会社の歴史やビジョン、コア・バリューなどは、オンボーディングの標準的なプログラムとして全員に通用するものですが、会社内で各新入社員が担う役割によって、オンボーディング・プロセスがある程度カスタム化される必要もあると思います。

会社内での役割が異なると、その社員が採用された目的や、会社からの期待も異なってくるので、オンボーディングの際にこの「目的」や「期待」がハイライトされることが必要だと思います。多くの会社が、採用面接のプロセスを通して、新入社員のスキルの査定テストを行ったり、コンピテンシーを記録したりしています。こうして蓄積されたデータをもとに、新入社員がどのような点で優れているのか、あるいは、新しい役割のストレスのもとで、潜在的にどんな問題が生じうるのかを予測することができます。

新入社員が与えられた役割が、その組織内にもとから存在したものなのか、あるいはまったく新しいものなのか、によってもオンボーディングのプロセスは変わってきます。例えば新入社員が既存の役割を引き継ぐ場合、オンボーディングのプロセスに前任の担当者を介入させることが有益かもしれません。例えば出社初日前に、両者が会社の外で面談する機会をつくることは、前任の担当者が経験知やベスト・プラクティスを共有したり、お互いに人間関係を築いて、懸念事項や新しいアイデアを共有することにもつながります。

オンボーディングのプロセスを各新入社員に対してカスタマイズすることも重要ですが、オンボーディングを成功に導くためには、その会社の文化に見合ったオンボーディング・プロセスを確立することも必要です。「他社との違い」はどこにあるのか、そして、「会社の文化」の何が独自性に貢献しているのか、を明確に知らせることが、新入社員が会社に慣れ親しむうえで大きな助けになると思います。十分な準備を踏まえて、会社の期待を的確に知らせることができれば、入社するすべての社員が力を発揮できるよう補佐するプロセスを確立できるはずです。

オンボーディングのまとめ
■ 準備を怠らないこと。出社初日までに、リーダーシップ間で共通理解を築き、必要書類を用意しておくこと。
■ 初めの数週間は、採用面接の延長線上にある。新入社員が会社の文化に触れるよう仕向けながら、組織内の役割における「期待」を知らせ、また、新入社員が携わるプロジェクトの内容を知らせること。
■ オンボーディングは3カ月から6カ月間の期間を要する。その過程で、入社後の30日目、60日目、90日目などというように振り返りのタイミングをあらかじめ決めておく。これらの「振り返り」を正式に設けておくことで、新入社員が直面する問題を早期に発見し、また会社・社員間のすれ違いなどを発見して軌道修正することができる。これが生産性の向上につながる。
■ オンボーディングは各新入社員が組織内で担う役割によってカスタマイズされるのが好ましい。会社の期待を明確に知らせ、また引き継ぎを円滑にするため、前任者、あるいは直属の上司との面談の機会も設けること。
■ 「お世話役」の重要性。会社によって、「アンバサダー」や「メンター」など、異なる名前で呼ばれる。「お世話役」は、業務、文化、会社の人間関係など、新入社員が一日も早く会社の生活に慣れ親しむことができるように、あらゆる側面において包括的なサポートを提供する役割を担う人を指す。一般的にいって、新入社員一人に対し、その「担当」となるお世話役が任命される。会社の中にはそれぞれの文化、やり方、慣習があり、それらの多くは不文律の約束事である。たいていの場合、新入社員はそれらの「やり方」を肌で感じ取り、体験を通じて読解し、身につけていかねばならない。お世話役は、新入社員のどんな質問や疑問にも答えてあげる人のことである。また、昼休みを一緒に過ごしてあげる人でもある。新入社員が悩みや分からないことがある時に何でも相談に乗ってあげる人のことである。新入社員とお世話役をどうマッチングするか、については会社によって考え方ややり方がそれぞれ異なるが、社員の趣味等をデータベース化しておき、その情報に基づいて趣味の合う人同士をマッチングする会社や、社内の横のつながりを強くするために、あえて異なる部門や部署に所属する人同士をマッチングする会社などがある。

*注:この記事は、米スモール・ジャイアンツ・コミュニティによるインタビュー記事に基づき、ダイナ・サーチが独自の視点や見解を加えて作成したものです