本記事は、コア・バリュー経営協会会員向け記事として作成されたものです(2019年2月10)。

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会社の「一貫性」を問うたグーグルのグローバル・ストライキ

会社がその「信条」や「価値観」として表に掲げることと、日々の実際の行動との一致が問われている。これを浮き彫りにしたのが2018年11月に起こったグーグル社員のグローバル・ストライキだ。

ある会社役員に対して一社員が提出したセクハラ行為の陳情を受けて、グーグルがその役員に何億円という退職金を払い、事実上もみ消したという対処を不服として、米カリフォルニア州マウンテンビューの本社はもちろんのこと、世界各地に所在するグーグル・オフィスで有志社員がストライキを決行した。

ダブリン、ロンドン、ベルリン、チューリッヒ、シアトル、シカゴ、ニューヨーク、シンガポール、東京・・・。世界各地で総勢約2万人の社員がストライキに参加し、抗議の言葉と会社への要望を声高に叫んだ。

グーグル開発のAIアシスタント、Googleアシスタントの呼び出し文句である「OK Google」をもじって、「Not OK Google. オーケーじゃないよ、グーグル」など、思い思いのプラカードを掲げる人たちの姿が見られたが、その中でもひときわ目についたのは、グーグル創業時からのコア・バリューのひとつである「Don’t be Evil(邪悪になるな)」であった。

「『邪悪になるな』というコア・バリューを掲げながら、それに反することばかりしているじゃないか」

最近、グーグルの社内には、セクハラ問題に限らず、コア・バリューに反した会社側の諸々の行いや判断に対しての不満が渦巻いていた。その鬱屈が、今回のセクハラ疑惑に関する不当処分の糾弾が引き金となり、ストライキという形で表面化したのである。

「セクハラ被害の報告に対して、仲裁を当事者に強いるのを止めること」「社内でのセクハラ被害報告の現状について報告書をまとめ、公式に開示すること」「性別や人種による給与格差が一刻も早く是正されるよう取り組むこと」「取締役会に社員の代表を参加させること」などの要望と併せて、抗議の文言の中には、「Maven(米国防総省へのドローン用映像解析AI技術の提供プロジェクト)反対」「Dragonfly(中国政府によって検閲された情報のみを表示する検索エンジン開発プロジェクト)反対」なども見られた。

社員の中には、グーグルのコア・パーパス「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」や、先述の「邪悪になるな」等をはじめとしたコア・バリューに魅力を感じてグーグルに入社した人も多い。これらの社員たちにとって、近年のグーグルのコア・バリューからの逸脱は、社員への約束違反であり、グーグルのアイデンティティの破壊という深刻なこととして受け止められているのだ。

「働き手のいない会社は『ナッシング(無)』だ」とストライキの主催者たちは宣言した。シリコンバレーのエンジニア、ましてや、グーグルのエンジニアといえば引く手あまたである。「解雇されても声を上げることは止めない」という意味のプラカードを掲げる人もたくさんいた。彼らには怖いものはない。「選ぶ力」をもった働き手たちが、会社がその大義名分や価値観に忠実であることを求める運動は今後より頻繁に見られるようになってくるだろう。グーグルの社員が、「取締役会への社員の代表者の参加」を求めているように、これまでは会社の「上層部」だけに委ねられてきた類の意思決定が、一般社員にも開かれた組織やガバナンスのかたちが珍しくなくなってくるはずだ。会社組織はますますフラットに、そして民主的になっていく。

注):この記事は、ダイナ・サーチ代表・石塚しのぶのオリジナル・コンテントです。

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