本記事は、コア・バリュー経営協会会員向け記事として作成されたものです(2017年1月27日)。

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「従業員エンゲージメント」のメカニズム

【「エンゲージメント」はどこから来るか?】

従業員の頭の中を覗いてみたいと思ったことはありませんか。会社に「エンゲージ」している従業員と、そうでない従業員。その差はいったいどこから来るのでしょうか。

「従業員エンゲージメント」は、会社の使命や目的、あるいは仕事そのものに共感して、期待以上のことを達成しようとする姿勢のことを指します。「エンゲージ」している従業員は、会社に長く働き、生産性も高く、また、顧客を満足させるようなサービスを提供してくれます。

「エンゲージメント」を高めるためには、経営者として何ができるでしょうか。従業員が会社に、仕事に何を求めているのかを考えてみましょう。

「エンゲージ(engage)」という言葉はそもそもフランス語の「gage(ガージュ)」から来ています。これは、「我が身を捧げる」こと、あるいは「契約を結ぶ」ことを意味する言葉です。「エンゲージメント」は、従業員と会社との間に結ばれる「感情的な契約」であるという人もいます。言い換えれば、会社と従業員が、お互いに対して負う責任ということです。

例えば、会社から従業員への「責任」のひとつが「お給料を支払うこと」であるとすれば、従業員が会社に負う責任は「仕事上の役割を果たすこと」であるといえるでしょう。また、より概念的なものとしては、「会社のコア・バリューや文化を共有して、実践すること」などがあるでしょう。

【「エンゲージメント」が損なわれる時】

従業員の「エンゲージメント」が損なわれる理由のひとつは、会社のリーダーが「感情的な契約」に反する行いをすることです。この場合、従業員の多くは、その反応を目に見える形では表現しません。経営者が従業員に対して不正直であったり、誠実さを欠いたり、労働環境がギスギスしたものである場合に、そして、お互いへの期待が明確に伝達されていない場合に、会社と従業員の間の信頼が損なわれることがあります。たった一つの出来事が多大なインパクトをもたらすこともあります。信頼を築くのには長い時間がかかりますが、壊れるのは一瞬だからです。

こうした信頼の損失は早めに対処されることが必要です。なぜなら、噂というのはすぐに広まるからです。そして、不満なムードは社内に伝染し、蔓延します。このように、良くも悪くも、感情は集団の中に伝染します。状況が改善されなければ、会社にとって最も貴重な人材を失ってしまうこともあります。

従業員と定期的に話をする機会をつくること、それも、従業員に感情を表現する機会を与えることが重要です。そうすることによって、問題の発生を早期に感知し、対処することができます。それだけではなく、経営側が従業員のことを気にかけている意思表示をすることにもなります。会社にとって自分が価値ある人間として認められていることを従業員が実感することで、「感情的な契約」が強まることにもなります。

「エンゲージメント」は従業員と会社の一対一の問題ではなく、「共同体」としての問題です。ですから、経営者は、従業員のニーズを吸い上げるような文化を築く努力をしなくてはなりません。

【共同体精神を育む】

チームの中の全員がオープンかつ効果的に意思疎通するための方法を考えましょう。風通しのよい組織をつくることが、信頼の強化にもつながります。信頼は、強固な共同体の土台を成すものです。人は信頼されていると感じると相手を裏切れなくなるものです。ですから、信頼はエンゲージメントの土台であるともいえます。なぜなら、人は自分のためではなく、他人のためを思った時、より大きな力を発揮するものだからです。

行動経済学者のダン・アリエリーが「仕事における満足とは」というタイトルで講演をしたことがあります。その講演の中で、アリエリーはモチベーションとはただ単に個人の満足感や経済的なメリットだけに基づくものではないと述べています。人は、挑戦することに心を奮い立たせ、結果を出したいと考えて努力するものです。仕事を通して、自分個人の損得を超える大きな目的を感じたいと思うものですし、仕事における当事者意識や誇りを持ちたいと思うものです。

【当事者意識をもつ】

仕事に対する当事者意識と「エンゲージメント」の関連性は、人間のもつ本質的なニーズに基づくものです。例えば、1940年代にアメリカでケーキ用のミックスが最初に売り出された時、その売れ行きは芳しいものではありませんでした。なぜだかわかりますか。それはお手軽すぎたからです。「水を加える」だけでは、多くの人が「自分が焼いたケーキ」である実感を得ることができなかったのです。結局、卵を割って泡立て、牛乳を量って加え、バターを溶かして混ぜる、という工程を加えた結果、顧客はそれを「自分が焼いたケーキ」と呼ぶ気になり、市販のミックスを買うようになりました。

経営者や監督者がこの例から学べることは、従業員エンゲージメントを向上させるためには、適度のチャレンジと当事者意識が必要だということです。時間をかけてその内容を咀嚼し、選択肢を検討し、解決策を捻出してはじめて、人は物事を「自分のもの」として感じることができます。あまり手がかからないものに対しては、当事者意識をもつことができず、結果としてエンゲージメントも高まらないということです。

先に述べたように、適度なチャレンジはエンゲージメントの向上につながるものの、従業員の手に余るようなチャレンジを課すのには注意が必要です。苛々するような仕事を与えるのは得策ではありません。過度のストレスを感じ始めたら、感情的に投げ出すのが人間心理というものだからです。これは人間が精神の健全を保つために行う。ごく自然な反応です。体内の菌を取り除こうとして発熱するのと同じことです。

【助けを求めやすい環境をつくる】

過度の不安を感じさせることなく、それでいて従業員がチャレンジを乗り越えるため奮起できるような環境を与えること、これは経営者やリーダーにとっての重要な「スキル」であるといえます。何を適度なチャレンジと感じ、何を過度のストレスと感じるかは個人によって異なりますから、監督者は各々に気を配り、行き詰っている従業員に救いの手を差し伸べる努力をしなくてはなりません。

もし、助けを求めることが侮蔑や冷笑で迎えられるような職場だったら、従業員は苛々やストレスがあってもそれを隠して働き、その結果、会社としての成果も従業員の満足度も損なわれることになるでしょう。会社の期待に沿う成果を挙げ、またそれによって個人としても充足感を感じられるように、従業員に対して、いつでも救いの手を差し伸べるような環境をつくっておくことが必要です。

エンゲージメントとは、雇用者と従業員との間で、お互いに対する「期待」が明確に伝達され、また、チーム全員の言動によって信頼の文化が築かれてはじめて実現されるものです。チャレンジを与えられ、また、助けが必要な時はいつでも仲間に頼ることができるという安心感をもって働くこと、それは従業員のストレスを軽減し、離職率を下げることにもつながります。

世論調査機関のギャラップの調べによると、アメリカの労働人口の中で、「積極的にエンゲージしている」のはわずか13%。あなたの会社ではどうでしょうか。従業員のエンゲージメントを高めるような意識的な努力と環境づくりがなされているでしょうか。定期的な確認が必要だと思います。

(注:この記事は、米スモール・ジャイアンツ・コミュニティのインタビュー記事を、ダイナ・サーチの見解や解釈を踏まえ、加筆・編集したものです。)

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