コア・バリュー・リーダーシップ

会計事務所としては屈指のグローバル企業であるKPMGでは、会社のコア・パーパス(社会的存在意義)を再定義するために、全世界の従業員たちにひとつの質問を投げかけました。「KPMGでのあなたの仕事は?」というものです。もちろん、「会計士」「税理士」「会計捜査官」などという月並みな答えを求めていたわけではありません。KPMGでの日々の仕事の背景にある「崇高な目的は何か」を問うのが、この質問の意図でした。

「従業員が語る1万個のパーパス・ストーリー」を集めるために着手されたこのイニシアチブは、最終的に目標を優に超える4万2,000個の「ストーリー」を集めることに成功しました。

あるパーパス・ストーリーの表題は「私たちは民主主義を推進します」というものです。「南アフリカ共和国が史上初の民主的選挙を行い、ネルソン・マンデラを大統領に選んだ時、私たちは選挙結果を認証する大切な役割を果たしました」。

「私はテロリストと戦います」というストーリーもあります。「KPMGはマネー・ロンダリングを防ぐために金融機関をサポートし、資金がテロリストや犯罪者の手に渡らないようにします」というものです。

より身近なストーリーでは、「私は農家の成長を助けます」があります。「家族農場が融資を必要とする際、ローン会社に掛け合って資金を確保し、アメリカが誇りとする家族農場の伝統を守ります」。

4万2,000個中の3個を見ただけでも、KPMGの従業員が会社や自分の仕事に対して抱く誇りと使命感がひしひしと伝わってきます、

働く人に自分の「パーパス・ストーリー」を語ってもらうというこの試みは、従業員エンゲージメントの向上ももたらしました。このイニチアチブを開始して半年足らずの間に「KPMGは素晴らしい会社である」と答えた従業員の割合が82%から85%に、そしてさらに1年後には89%に向上しました。また「私の仕事には特別な意義がある(ただの仕事ではない)」と答えた従業員は全体の76%に達しました。

興味深いことに、会社のコア・パーパスに関して日常的に会話が交わされている部門や部署の場合、94%が「KPMGは素晴らしい職場である」と答え、同じく94%が「KPMGで働いていることを誇りに思う」と答えましたが、反対にコア・パーパスに関する会話が聞かれない部門や部署においては、「KPMGは素晴らしい職場である」と答えた人の割合は66%、「KPMGで働いていることを誇りに思う」と答えた人は68%に留まったといいます。年間の離職率も、コア・パーパスについて話されない部門や部署では9.1%と、コア・パーパスが話される部門や部署の5.6%に比べてかなり高めであるという結果が出ました。

会社のコア・パーパスを、日々の仕事に関連づけて話し合う機会を持つことが、働く人のエンゲージメントやロイヤルティや、モチベーションに大きな影響をもたらすことがこの事例からわかります。

(注:本記事は、『コア・バリュー・リーダーシップ 石塚しのぶ著 PHPエディターズ・グループ』から抜粋、加筆、修正したものです。)