「VOC(ボイス・オブ・カスタマー)」プログラムというのは、かなり以前から企業で活用されてきました。特に、90年代になり、「顧客主導型市場」などという言葉がビジネス界のキーワードのようになってきた時代には、顧客の声を聴くことの大切さがいろいろと討議されてきました 。

かたや、「VOE(ボイス・オブ・エンプロイー)」プログラムという言葉はまだまだ耳慣れない言葉です。「従業員の声」という言葉ですが、近年になってこの重要性にスポットがあてられ、「VOEプログラム」の運営を請け負う会社なども出てきました。コア・バリュー経営においても大いに重要視されています。

では、なぜ、「働く人の声を聴く」ことが重要なのでしょうか。

私はこれには二つの理由があると思っています。ひとつは、個人の力が強大化した時代においては、個々の顧客の声が非常に重く、そうした顧客の声を最も効果的かつ最も正確にキャッチできるのは顧客接点で働いている人たちに他ならないからです。

そしてもうひとつは、従業員満足は、顧客満足に最も直接的なインパクトをもたらすからです。アンハッピーな従業員が顧客をハッピーにできるわけがありません。ですから、優れた顧客サービスを目指すのであれば、従業員の満足度を常に把握し、問題を感知したら即対処するように努めることが必要だと思います。言い換えれば、「奉仕の精神」という価値観を中核としたサービス文化を築く必要があるということです。

会社を「経営」する一部の人たちだけが常に最も優れたアイデアをもち、最も効果的な解決策を編み出すことができる時代はもう過去のものとなりました。現場の人の貴重な意見を吸い上げ、経営上の重大な意思決定や会社の方向性の決定に活かしていくことが年々重要性を増してきているのです。コア・バリュー経営でいうところの、「参加型」を実装するということです。

だからといって、VOEプログラムを設ければ働く人の声が聴けるようになるかというと、そうではありません。「社員のインプットが欲しいのはやまやまだが、社員が意見を言ってくれない」という悩みをよく聞きます。「働く人の声を聴く」「働く人が意見を言ってくれる」というのは、突き詰めていけばプログラムやツールの問題ではなく、会社全体で共有する価値観の問題であり、環境の問題であり、個人のマインドセットの問題です。働く人が自由に意見を言い、役職のあるなしに関わらずみんながそれに謙虚に耳を傾けるような価値観をもった企業文化を育む必要があります。

記事/ダイナ・サーチ、インク 石塚しのぶ