「健全性」と聞いて皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。大辞泉を引くと「1.心身が正常に働き、健康であること、2.考え方や行動が偏らず調和がとれていること、3.物事が正常に機能して、しっかりした状態にあること」と出てきます。では、これらの定義を踏まえて、「組織の健全性」とはいったいどんなことを意味するのでしょうか。

人間の身体を思い浮かべてみてください。頭があり、胴体があり、手足があります。また、脳や心臓や肺や腸といった臓器があります。そして、身体じゅうを巡っている神経を通じて脳からの信号が、血管を通じて血液が様々な部位に送られます。人間の身体が正常に機能するためには、それらすべてが相互的に関わり合い、成果を出していくことが必要になります。脳だけ、心臓だけ、肺だけ、腸だけが働いていても意味をなさないということです。また、人間の身体が「健全に機能している」ということは、異なる部位で構成された全体としてのバランスが取れているということです。例えばある特定のホルモンの分泌だけが過剰に活発になっても、全体として健康に支障をきたしてしまいます。

これを組織に置き換えて考えると、まず、組織内の異なる機能部門や部署が相互的に関わり合い、成果を出していること、こういう組織が、「健全性に富んだ」組織であるといえます。製造業者だと、営業と製造の関係がうまくいっていない、などということがよく聞かれます。例えば営業が製造側の事情を無視して、理屈で考えて遂行不可能な量の注文を取ってきてしまうと、そこで製造との間に摩擦が起こります。営業は製造計画や調達計画を無視している、ということになるわけです。また、レストランだと、厨房とフロアスタッフの連携がとれていないことが多々あります。たとえばお客さんから何か特別なリクエストを受けたとして、フロアスタッフがそのリクエストを満たしたいとどんなに強く思ったとしても、厨房の協力がなければこれを遂行することはできません。会社のビジョンを実現するためには、会社組織内の異なる部位が相互的に関わりあって成果を出す体制になっていることが必要です。

また、異なる機能部門や部署間のバランスがとれていることも必要です。会社によっては、「えこひいき」のメンタリティが存在することがあります。例えば「営業」が花形の会社というのはよく聞きます。「売上」に直結する業務である「営業」ばかりが称賛されるあまり、その他の部門や部署がやる気を失ってしまったり、組織内で部門・部署間の溝や軋轢が生まれたりすることがあります。そういった「不調和」を避けるためには、各部門・部署に注がれる経営陣の注意や資源に隔たりがないことが大事です。

会社の経営を考えるうえで、「事業戦略」にばかり偏ったフォーカスが置かれるのはよくあることですが、これからの経営では、「組織戦略」にも等しく気を配ることが会社が競合と一線を画し、厳しい変化の時代を乗り越え、繁栄していくためのカギになります。個人が各々の力を十二分に発揮し、会社に貢献できる組織をつくれるか否かが会社の明暗を分けることになります。

記事/ダイナ・サーチ、インク 石塚しのぶ