本記事は、コア・バリュー経営協会会員向け記事として作成されたものです(2019年4月27日)。

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コア・バリュー・リーダーの素養:マインドフルネス

「マインドフルネス」は、近年、シリコンバレーのテック企業のトップ経営者が日々の修養として実践したり、リーダーシップ・トレーニングに導入したりしたことにより、アメリカのビジネス・ボキャブラリーの一部として市民権を得るようになりました。なかでも最も有名なのは、グーグルの研修プログラム「サーチ・インサイド・ユアセルフ(略称SIY)」でしょう。「サーチ・インサイド・ユアセルフ」はグーグルの元エンジニアで同プログラムの開発者であるチャディー・メン・タン氏により書籍化され世界的なベストセラーにもありました。

「マインドフルネス」は、今現在自分に起こっている内的経験(思考や感情、身体感覚)や外的経験(周囲の環境や人)に、判断や批判なく注意を向けることを指します。頻繁に、「マインドフルネス=瞑想」と理解されていることがありますが、「瞑想」は「マインドフルネス」の有効な訓練法ではあるものの、二者は同義ではありません。また、「マインドフルネス」の概念自体は仏教の修練に端を発しているものの、アメリカではマサチューセッツ大学医学部のジョン・カバット・ジン教授により開発された「マインドフルネス瞑想」を中心に非宗教的なアプローチを通して広められてきました。

「マインドフルネス」の実践には、ストレス軽減や、ネガティブな体験や感情に対するレジリエンス(回復力・弾性)の強化、集中力や創造力の向上、共感力や思いやりの心の育成などといった効用があるといわれます。いずれも、リーダーとして成果を発揮するために開拓すべき性質や能力ばかりです。

特に、(これはリーダーに限ったことではないが)「仕事に過度のストレスを感じる」人がアメリカの就労人口の40%を占め、さらに26%が「職場でストレスを感じることが多い」と答える中、職場での「マインドフルネス」の訓練に大きな関心が示されています。ストレスにより引き起こされる疾患の治療、欠勤、生産性の低下に関連するコストは年間15兆円超にものぼり、アメリカの企業にとって大きな負担となっています。

また、「マインドフルネス」は、従来型のリーダーシップ・トレーニングの欠落を補うものでもあります。「導き・育てる」タイプの新しいリーダーシップにおいては、かつての「指揮統制型」のリーダーシップの範疇にはなかった、内観力やEQ(心の知能指数)といった能力が要求されます。しかし、今日提供されているリーダーシップ・トレーニングの多くがこれらの要素を欠いています。米企業のトップ経営者の75%が「次世代のリーダー育成」を最大の関心事として挙げ、年間合計2兆5,000億円以上を「リーダーシップ研修」に費やしていますが、その成果に満足しているのは15%に留まります。「マインドフルネス」の訓練は、この空白を埋めるものとして期待されています。前述のグーグルの他に、フェイスブック(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、ピクサー(映像制作会社)、ゼネラル・ミルズ(食品メーカー)、フォード(自動車メーカー)、エトナ(保険会社)、ゴールドマン・サックス(金融)など、業界業種を問わず多種多様な企業が社内で独自のマインドフルネス研修プログラムを提供しています。

「マインドフルネス」の訓練法としての瞑想
「マインドフルネス」の訓練法として最もポピュラーなのが、呼吸に焦点をあてた瞑想です。筆者も実践していますが、やり方は至ってシンプルです。静かな場所にゆったりと座って、目を閉じて、吸う息と吐く息に注意を向けてみます。そして、その瞬間に、自分の内にある思考や感情、身体感覚を認識します。同時に、音や臭いなどの外的環境も認識します。しかしそれらのどれにも囚われない。固執しない。ただ、認識するだけです。意識の中心に置くのは吸う息と吐く息です。これを十分間でも続けると、だんだんと心が落ち着き、頭がクリアになってきます。

ある研究によるとストレス・ホルモンが最も多く分泌されるのは朝の起床の直後だといいます。従って、日々の瞑想の時間として朝、出勤前を勧める人が多いですが、筆者もたいてい、朝に瞑想をしている。

2014年に、ベトナム出身の禅僧、ティク・ナト・ハンはシリコンバレーに招かれ、グーグルをはじめとするテクノロジー企業約20社のトップ経営者を対象にマインドフルネス講習を行いました。同氏は職場でのマインドフルネスの実践をテーマに本も著しています。その中で、一日中PCに向かって仕事をしているデスクワーカーのために、「PCのアラームを一時間に一度鳴るように設定して、それが鳴るたびに一分間瞑想をしなさい」と指導しています。また、座って目を閉じて、呼吸をするだけが瞑想ではないといいます。ようは「今、ここ」で起こっていることに注意を向けることです。だから同氏は、「食べる瞑想」や「歩く瞑想」などを提唱し、いつ何時でも、「今、ここ」に一点集中できる精神を鍛えることの重要性を説いています。

「ノイズ」過多の時代に、自分の「内」と「外」に対して常に敏感であらねばならないリーダーにとって、「マインドフルネス」は欠かすことのできない鍛練であるといえます。コア・バリュー経営においても、「マインドフルネス」は非常に重視されています。

注:この記事は、ダイナ・サーチ代表・石塚しのぶのオリジナル・コンテントです。

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