ロックダウン(外出禁止令)が長期化するにつれて、在宅勤務に難しさを感じる人が増えています。同居人のおかげで仕事に集中できなかったり・・・、思うように効率が上がらないとイライラして家庭不和を引き起こしたりもします。コロナ以前であれば、そんな時に憩いの場を求めて近所のスタバへ・・・などといったことも可能でしたが、ロックダウンの最中ではそんなわけにもいきません。

そこに助け舟を出しているのがホテルやモーテルなどのホスピタリティ施設です。ロックダウンの直撃を受けて、ホテルの稼働率はゼロに近く、多くが売上の損失にあえいでいます。そこで、少しでも収入を得る手段として、ひとりになれる空間で集中して仕事を片付けたいと願う人たちに「朝八時から夕方六時まで」といったように、宿泊なしで部屋を提供するホテルが出現しているというわけです。

たとえばユタ州ソルトレイクシティのハイアット・ホテルは、午前8時から午後5時までの「デイ・ユース・オフィス」プランを59ドルで提供しています。オハイオ州コロンバスのレッド・ルーフ・インでは午前8時から午後6時までのプランを29ドルで、カリフォルニア州のサンタ・バーバラのラマダ・インでは午前7時から午後6時までのプランを75ドルで・・・といった具合に、全米各地のホテルが続々と「貸しオフィス・ビジネス」に参入しています。

考えてみれば、ほとんどのホテルはWi-Fiが遣い放題ですし、昼寝をしたい時にはベッドもあるし、コロナ・クライシスの只中である今現在は使えないにしてもフィットネス・センターなどのアメニティもありますし、ゆっくり集中して仕事をしたい人にとっては理想的な環境なわけです。

現時点では、「ホテルの部屋を貸しオフィスとして活用する」のは、「コロナ・クライシス下の臨時サービス」にすぎませんが、ロックダウン解除後にこれがサービス・メニューの一部として定着する可能性は充分あります。

特にビジネス関連の利用者が多いホテルだと、夜遅くにチェックインして、朝早くにチェックアウトする顧客も多いですから、日中、部屋を遊ばせておくよりは、オフィスとして利用したい人に貸して売上好機につなげるという考え方は大いに有効です。

コロナ後のトレンドとして、「テレワーク」が定着するといわれています。今までは、「会社」でも「自宅」でもない場所として、シェアオフィスやスタバのような「サード・スペース」がもてはやされていましたが、そういった「不特定多数の人とスペースを共有する=感染リスクの高い」場所に代わるもの/サービスが必要とされるようになるでしょう。「ホテル・ルーム」がその空洞を埋める存在になるポテンシャルは高いといえます。

ホテルが「オフィス・スペース」としてのマンスリー・プランを提供する・・・などということもあり得ると思いますし、それに絡んだポイント・プログラムや特典も考えられるかもしれません。ビジネス・ホテルはもちろんのこと、ラグジュアリー・ホテルは、ラグジュアリー・ホテルならではの「何か」を提供することで、他との差別化を図ることができそうです。

コロナ・クライシスで、アメリカではトラベル関連の雇用が半減するといわれています。過去に類を見ない危機に直面しているホテル業界ですが、社会や生活者の価値観が豹変しようという今こそ、未曾有のイノベーションやビジネス・チャンスを創造する時といえるかもしれません。

記事/ダイナ・サーチ、インク 石塚しのぶ