就活2.0:コア・バリュー就活のススメ

先日、アメリカのあるビジネス・ニュース・メディアが「理想の職場を探すための三つのアドバイス」と題する記事を掲載していました。

その記事を読みながら、私としてもいろいろと言いたいこと、書きたいことが溢れてきましたので、考えを整理してみました。以下に、『コア・バリュー就活のススメ』と題し四つのアドバイスにまとめています。「理想の会社」を探している皆さんに、ぜひ参考にしていただけたらと思います。

ミレニアル世代(1981年から1996年までに生まれた世代)やZ世代(1997年から2010年代初頭に生まれた世代)といった若い世代は「コア・パーパスとコア・バリュー」の世代です。自分と信条や価値観がマッチする会社で働きたいと強く望んでいます。日本ではまだまだ、「会社の規模」や「ブランド(名の知れた会社かどうか)」「給与や福利厚生」といったことにこだわり、「自分が情熱を注いで長期的に居心地よく働ける会社」であるかどうかには注意を向けていないように思いますが、これは人が充実した幸せな人生を送るためには極めて重要なポイントです。なにせ、普通の人は日々、起きている時間の大半を会社で働いて過ごすのですから・・・。やりがいをもって、目的や価値観を同じくして働ける人たちと働けることが、幸せな生き方を確立することに大きく貢献するでしょう。

そして、企業の採用やリクルーティング担当者の皆さんにも、あらためてこの点に留意していただきたいと思っています。優秀な人材、そして、会社で能力を最大限に発揮してくれる人材を確保するためには、自社のコア・パーパスコア・バリューを明確に定め、いかにしてそれらを社外に発信していくか、戦略的に考え、実行することが必要不可欠です。そうしなければ、今後、会社にあった優秀な人材の確保など望めるわけはなく、したがって社員の生涯価値や、企業価値の最大化も望めません。

求職者へのアドバイスその1:
まず、「自分にとって何が一番大切か」を整理する。

これは言い換えれば、自分の人生の目的や、自分の価値観を明確にすることです。

アメリカでは、若い頃から、人々が自分の人生の目的や価値観といったことについて考える機会が比較的頻繁に与えられているような気がしますが、日本ではそういった機会や考え方があまりありません。アメリカは日本に比べて多様性に満ちた国なので、比較的若いころから、個人が「自分の価値観」や「他人の価値観」について考えて自己主張する必要性があるからなのかもしれません。しかし、最近は、日本でも外国人の働き手が増え、海外の方で日本に居住されている方も増えて、職場も社会も多様化しています。ですから、日本の皆さんも、若いうちに自分の価値観についてじっくり考えてみる必要が出てきていると思います。

「自分の価値観」を明確にしたい人たちに、私がお勧めするのは、次の三つの質問からなる思考エクササイズです。

1)自分のこれまでの人生の中で、「最高に輝かしい瞬間」を思い返して、その瞬間に「どんな要素」があったから充足感を感じたのかを探索してみる。その「要素」を価値観の言葉で表すとどんな言葉が連想されるか。
2)仮に自分の人生に何の障壁も制約も存在しないとしたら、追求(実現)したいことを考えてみる。その「追求(実現)したいこと」が象徴する価値観は何か。
3)自分が尊敬する人、人生のお手本にしている人、あるいは大好きな友人を一人、思い浮かべる。その人のもつ性質の中で、自分がぜひ「見習いたい」と思う性質は何か。その性質を価値観の言葉で表すとどんな言葉になるか。

これら三つの質問への答えを、できるだけたくさん真っ白な紙の上に書き出してみてください。あまり考えこまないで、直感的に頭に思いつくことをどんどん書き出していくことがキーです。

書き出したものの中から、重複や類似などを整理整頓して、十個以内の「コア・バリュー(中核となる価値観)」に絞り込みます。

求職者へのアドバイスその2:
自分の「コア・バリュー」が明らかになったら、同じような価値観を共有できる会社を探します。

昨今は、「インターネット」という便利な道具がありますから、ネットで検索を行うだけでもたくさんの発見があると思います。

最近では、日本の会社でも「コア・バリュー」を定めている会社が増えてきました。ですから、ずばり、「コア・バリュー」というキーワードで検索してみることでもいろいろな会社に出会えると思います。

ただし、多くの人の場合、「コア・バリュー」さえ合致していればどんな会社でもいい、というわけではありません。自分が専門とする業界や業種、職種などもあるでしょう。

ですので、事業内容や業界・市場での評判など、コア・バリュー以外の要素から「いいな」と思う会社の見当をつけたら、その会社のウェブサイトを覗いてみることをお勧めします。

「コア・バリュー」というようなドンピシャな表現を使っていない会社もあるかもしれません。たいていの会社が、会社紹介のページを設けています。その中に代表のあいさつがあったり、理念やビジョンのページがあったりします。また、会社によっては、リクルート/採用専門のページを設けて、「企業文化」の紹介をしたり、社員インタビューなどのコーナーを設けて、社員自らの言葉で「どんな会社か」を表現したりしているところもあります。これらの内容から、その会社の価値観を導き出すことができると思います。

求職者へのアドバイスその3:働く人の声を聴いてみる
上に述べたように、会社のウェブサイトをチェックするのはもちろん重要ですが、一方で、その会社の中で働く人たちの声を聴いて、「実際のところはどうか」を把握するよう努めるのも同様に重要です。

アメリカでいえば「グラスドア(Glassdoor)」のような企業評価(口コミ)サイトが非常に参考になります。グラスドアでは、現職社員や元従業員などが会社の文化や就業環境についてレビュ―を投稿したり、会社の格付けをしたりしています。日本でいえば「転職会議」「キャリアドア」「カイシャの評判」などが類似サービスです。

広告や宣伝にも見られますが、「言葉と行動が合致していない」というのは残念ながらよくあることです。会社の理念、コア・パーパスやコア・バリューも、会社によっては玄関ロビーや会議室の壁の上に掲示してあるだけの「標語」になってしまっているケースが多々あります。これらの企業評価サイトでは、実際、その会社で働いたことのある人/働いている人の生の声をチェックすることができ、その会社がただ「口だけ」の会社なのか、あるいは行動が伴っている「筋の通った」会社なのかを見分けることができます。

とはいえ、いろいろな人が多種多様な動機でレビューを残します。中には、何らかの理由でその会社で不愉快な体験をした人が、報復のつもりでレビューを残すこともあるでしょう。ですから、レビューに書かれていることをすべてうのみにするわけにはいきません。ある程度、分析的な目で見ることが必要だと思います。

そのためには、できるだけ数多くのレビューを読むことが役立ちます。ひとつやふたつではなく、何十というレビューを読み進めていくと、そこから「傾向」が見えてくるでしょう。また、格付けも「平均値」や統計が示されていますから、より現実的な視点を得るためにはそれらのデータも参考にしてください。

求職者へのアドバイスその4:
採用面接の際に企業文化について面接官を「逆インタビュー」してみる

書類選考を通過して採用面接までたどり着くことができたら、その機会を利用して、その会社の企業文化についてよりよく把握するように努めることをお勧めします。

面接の終わりのほうで、面接官が「何か質問はありますか」と促してくれたら、それがチャンスです。その会社の企業文化や、コア・パーパス、コア・バリューについて、面接官に質問してみましょう。

〇貴社にはコア・パーパス、コア・バリューはありますか。
〇貴社の企業文化を一語、あるいは短い文章で表すと何でしょうか。
〇貴社の企業文化で、一番誇りに思っておられるのはどんなところですか。
〇貴社の企業文化として、社員の行動としてどんなことが重んじられていますか。奨励されていますか。
〇貴社の企業文化として、「こんな人にうちの会社には向いていない」という人はどんな人でしょうか。

これらはごく一部の例ですが、その会社の企業文化を知るために、複数の質問をしてみることをお勧めします。

番外編:企業の採用担当者へのアドバイス
最後に、ごく簡単に、企業の採用担当者の皆さんへの私からの提言です。

冒頭で述べたように、アメリカでは、若い世代を中心に「コア・パーパス(企業の社会的存在意義)」や「コア・バリュー(中核となる価値観)」を主要な判断材料として、志望先や就職先を決める人が増えています。「コア・バリュー就活」は今やメインストリームになりつつあるということです。

こうした動きは、今のところ、日本ではあまり目立たないかもしれません。しかし、少なくともここ数年のうちに、若い世代で職を探している人たちが「会社のコア・バリューと自分のコア・バリューとの合致」に注目する時代が来ます。すると、必然的に、企業にとって、「コア・バリュー」が、有能かつ高い社員エンゲージメントを得られる人材を獲得するうえで有力なリクルーティング・ツールになってきます。

そこで、企業の採用担当者の皆さんへの私からのアドバイスは次の三つです。

1.自社のコア・パーパスとコア・バリューを明確にする
3.自社のコア・パーパスとコア・バリューを発信する
3.社外の人たちに、自社の文化に親しんでもらう媒体をつくる

会社のウェブサイト上で自社の「コア・バリュー」を明確に発信することが言うまでもなくスタートラインですが、他にもクリエイティブなやり方が無限にあると思います。たとえばザッポスのような会社は、まだ彼らがごく小さな会社だった時から、「カルチャー・ブック」という社員の「文集」のようなものを作成していました。「ザッポスの企業文化について」ひとこと書いてください、と社員からミニ・エッセイを募集して、それを無編集で載せていました。「カルチャー・ブック」には、社員の言葉だけではなく、ザッポスの歴史や、年間を通じたイベントの写真を掲載するコーナーもあり、その一冊に簡単に目を通しただけで、ザッポスという会社の文化がよくわかるようになっていました。そしてザッポスはこれを、会社に面接に来た人たちや、取引先の担当者さんや、その他の理由で会社を訪れた人たちに無料で配っていました。そればかりではなく、お客さんを含め、希望する人には誰にでも「ギフト」として郵送していました。この「カルチャー・ブック」が、強力なリクルーティング・ツール、ブランディング・ツールとなっていました。

どこまで手の込んだことをするかは会社次第だと思いますが、少なくとも、会社のウェブサイト上にコア・バリューを明記することをお勧めします。

また、採用面接で面接官の役割を務める人たちには、面接の前準備として、次のような質問について自問自答しておくことをお勧めします。
〇「自社の企業文化はどんなものなのか」
〇「自社の企業文化のどんなところが誇れるのか」、あるいは「自社の企業文化について、自分はどんなところが好きなのか」
〇「企業文化の観点から、自社に『フィットする』人はどんな人か」
と、いうことを明確に把握、定義し、答えられるように準備をしておくべきです。

そして、これは面接官だけの課題ではなく採用担当者の課題、ひいては経営チームの課題になりますが、リクルーティング用のウェブサイト、会社案内、会社説明会などといったあらゆるツールやオケージョンを通じて、いかにしてより効果的に「企業文化」を訴求していったらいいかを戦略的に考える必要があります。「企業文化」が、優れた人材、つまり会社と目的や価値観を同じくし、自分の能力を最大限に発揮してくれる人材を確保するうえでの有力な武器になってくるからです。

少子化が年々進み、人材確保が厳しくなっていく時代に、顧客を獲得するのと同様な戦略的思考や労力をもってして、採用やリクルーティング活動に取り組む必要があると思います。独自性のない、没個性的な会社は働き手にも選ばれることなく敗退していきます。魅力あふれる企業文化醸成のためにも、その土台となるコア・パーパスやコア・バリューの確立に今すぐ着手されることをお勧めします。

記事/ダイナ・サーチ、インク 石塚しのぶ