信頼経済とコア・バリュー・リーダーシップ:その1

かつての「ブランド」は「外向き」につくられるものでした。
会社の「中身」とは関係なく、会社の「外」の世界に向けて、訴求したい「イメージ」をつくり上げ、マス・メディアを通じて発信し、人々の頭の中に刷り込む。それが「ブランド」として成り立っていました。
しかし今は違います。今はそんなことをしても、「にせもの」であることがすぐにばれてしまいます。
今は、「会社の中で、どんな人が働いているのか」「その人たちがどんな価値観をもって働いているのか」「世の中(顧客)に対してどんな価値を提供したいのか」が重要なのです。働いている人そのもの、それがブランドになります。
なぜかというと、透明性が高く、ネットですべてが発信され伝播される時代には、どんなにかっこいいイメージをこしらえても、「実のところ」がすぐ明るみに出てしまうからです。
たとえば、どんなに「倫理的な会社だ」というブランド「イメージ」をつくって、口先だけできれい事を言っても、内部のことがすぐ露見してしまいます。社内のことがネット/ソーシャル・メディアを通じてすぐ世間に流布します。
虚偽のイメージをつくり上げることが逆効果になることも多々あります。素晴らしい理念を掲げていても、現実がかけ離れていたら、その事実が露見した時に生活者はその会社に「裏切られた」と感じます。これは大きな打撃になります。
だから、会社の社会的存在意義、そして会社の大多数で共有したい/共有すべき価値観をあらかじめ定めて、それを働く人が理解/共有し、実行することが重要なのです。そうすれば、会社の真のキャラクター、ブランドを醸成することができます。
(『コア・バリュー・リーダーシップ~組織を変えるリーダーは自己変革から始める~ 第二章「コア・バリューと戦略的企業文化」』から抜粋)

「信頼」はビジネスの土台です。これは今の時代に限らず、過去の時代にも通じる黄金則ですが、ネットの時代になり、ますますその重要性が高まってきました。
そして皮肉なことに、ビジネスの世界において、「信頼」は容易には得難い「希少」なものになってきています。昔から隠しておけた社内のことがソーシャル・メディアのような媒体を通じて拡散され、露見するようになりました。一般の生活者が、企業や公人に寄せる信頼の度合いは年々低下の一途を辿っています。「政治家は信頼できない」のと同様に、「企業は信頼できない」という固定観念が私たちの頭の中に頑固に根を下ろすようになっています。
「希少」だからこそその価値が高騰しています。企業にとって「信頼を得る・築く・保つ」ということが、長期的な繁栄を睨んで、真っ先に考慮されるべき最優先課題になってきているのです。

「信頼される」ということはどういうことでしょうか。「信頼を得る」ために何をすべきでしょうか。ひとつには、「言葉に嘘や偽りがない」ことです。これは人も企業も同じです。約束を破ったり、口では立派なことを言うけれども行動が伴わなければ「信頼」されません。企業の「言葉」とは例えば広告や宣伝、あるいはホームページの内容です。また、商品やサービスの「質」です。たとえば「人の生活を豊かにする」ことを掲げている製造会社が、その工場から有害な化学物質を近辺の河川に垂れ流しにしていたとしたら、「信頼」されるわけはありません。食品会社が製品の不具合で食中毒を出したら、「信頼」を失います。

また、「信頼を得る」ためには、「透明性が高い」ことも重要です。これは人になぞらえて考えるとよくわかります。たとえば人と出会った時、その人を「信頼」するまで時間がかかります。まず、その人のことをよく知らなくてはなりません。まったく知らない人のことを「信頼」する気になれるでしょうか。答えは「ノー」だと思います。ですから、情報開示が必要になります。

しかし「信頼」という観点から考えた時に、「人を知る」うえで最も重要なのは、その人が「どんな信念、あるいは信条を持って生きているのか」「何を大事にしているのか」「何を『正しい』と感じ、何を『間違っている』と感じるのか」ということです。たとえ仮に趣味が同じでも、これらの点において共感することができなければ、その人を「信頼」する、ましてや「好き」になることはできません。

企業についても同じことが言えます。だから、この透明性の高い「ネットの時代」に、企業が「どんな信念、あるいは信条を持って存在しているのか」「何を大事にしているのか」「何を『正しい』と感じ、何を『間違っている』と感じるのか」ということを、世の中に向けて、明確に宣言することが極めて重要になっているのです。

コア・バリュー経営の言葉でいえば、「コア・パーパス(企業の存在意義)」と「コア・バリュー(中核となる価値観)」を明確に、働く人みんなが共有するということです。コア・バリュー経営は、企業が生活者の「信頼」を築くうえでのメソドロジー(方法論)であるともいえます。そして、信頼の構築の第一歩は、自社の「コア・パーパス」と「コア・バリュー」を明らかにすることから始まるのです。

石塚しのぶ