遠隔でもチームとしての結束や一貫性を保つためのコア・バリュー
モバイル・アプリの開発を手掛けるある米国企業が、「リモートワークのコア・バリュー」を掲げていて面白いと思ったので共有します。

アメリカでは、ロサンゼルスやニューヨークのような地域では今年三月の末くらいから多くの企業が「リモート・ワーク」に切り替え、それが今日まで続いています。「リモート・ワーク」には、「自宅にいながらにして仕事ができるので、より柔軟性に富んだ仕事ができ、ストレス軽減につながる」などのポジティブなイメージがありましたが、蓋を開けてみると、「家にいながら仕事をしていると会社とプライベートのめりはりがつけにくく、よりストレスがたまる」という人や、孤独感に悩む人も出てきています。結果として、従業員エンゲージメントの低下や「バーンアウト(燃え尽き)」を引き起こしているケースもあるそうです。

コア・バリュー経営を通して、「コミュニティ(共同体)としての会社づくり」「居場所としての会社づくり」を提唱していますが、コロナの時代に、大勢の人がひとつの場所に集まることがままならなくなり、各々が自宅で「孤立した」環境で働く中で、どうやって「心のつながり」や「仲間意識」、そして、そこから生まれる「コラボレーション」や「共創」を可能にしていったらいいのか、ということが課題になっています。

そこで、チームの心をひとつに束ね、そして、考え方や行動の基盤を統一することで遠隔からの協働をよりスムーズにする「コア・バリュー(中核となる価値観)」の定義と実践が特に重要と考えられるようになってきました。

この会社は、「リモート・ワークの五つのコア・バリュー」を掲げています。次に、各コア・バリューとともに、それがこの会社のチームにとってどんな意味をもつのか、を簡潔に説明したコア・バリュー文書と併せてご紹介しましょう。

コア・バリュー1:コミュニケーション
「オフィス」という同じ空間にいるわけではないので、チームの中の全員が、常にお互いコンタクトが保てるように意識的な努力をしなくてはなりません。自分が「今、何に取り組んでいるのか」について積極的にアップデートすることが必須です。そして、仕事に特に関係ないことでも会話することはいいことです。仕事以外の自分の生活について何となくおしゃべりすることでチームの「つながり」が育まれ、たとえお互いに距離は遠くても、親近感を感じられる環境をつくります。

コア・バリュー2:整理整頓
「オフィス」という空間を共有していた時には、皆がアクセスする情報を集めたキャビネットがありました。それと同様に、リモート・ワークでは、皆が共通の整理整頓の仕組みに合意し、それを忠実に守って実践することが必要です。業務ごとに費やした時間を記録しておくことや、コミュニケーションを中央集権化してチームの中のすべての人に同じ情報が届くようにすること、ツールやリソースの管理にあたる担当者を定めて、必要に応じて、誰もが容易にリクエストを出せるようにすること・・・などが「整理整頓の仕組み」の例です。自宅にこもって独りで仕事をしていると気が滅入ったり、生産性が低下したりしますが、こういった「整理整頓の仕組み」を皆で定め、実践することにより、頭や気持ちをすっきりさせ、仕事の効率を上げることができます。

コア・バリュー3:自律
オフィスで自分の仕事ぶりを監督している「ボス」がいないことは快適かもしれませんが、その分、自らモチベーションを上げることが必要になります。毎日、いつ、何をするか、時間割を決めましょう。課題については、理にかなう範囲で、現状より一歩高いところにゴールを定めて、それをクリアするよう努力しましょう。人から言われてやるのではなく、自らモチベーションを上げる、あるいは規律を保つための習慣づけや仕組みをつくることがキーです。

コア・バリュー4:物事を新鮮に保つ
在宅勤務だからといって、家に籠りきりになるのは精神的にもよくありません。一日のどこかで、「外に出る」時間を考慮に入れスケジュールを組みましょう。週に幾度かは環境を変え、カフェやシェアオフィスで仕事をしてみると、気分転換にもいいと思います。人が周りにいる環境で働くことで、いろいろな情報が耳に入ってきて学びにもなり、心強くもあり、刺激にもなります。それは、独りで仕事をしていたのでは決して得られないものです。

そして時には、「思いつきで動いてみる」ことでマンネリ化を防げます。たとえば、あらかじめスケジュールされている会議とは別に、「思いつきで」チームメイトに連絡してみましょう。そうすることで、よりカジュアルで、より流動的な会話ができるでしょう。

家にいると、休憩がとりやすくなります。休憩をとることで生産性が上がるのであれば、それを大いに有効活用しましょう。誰しも、「気分が乗らない」時があります。たとえば朝にどうしても仕事に身が入らない、少し頭を休ませたいと感じたら、洗濯をしたり、掃除をしたり、スーパーに買い物に行ったり・・・、家の用事を片付けることもひとつの選択肢です。「何かを遂行した」という達成感を感じることができますし、もやもやが晴れて頭もはっきりすると思います。すると、午後や次の日にはより仕事に集中することができ、リモート・ワークからくる「燃え尽き」を防ぐことができます。

コア・バリュー5:チーム・ファースト
もしあなたが人との交流を好まないのなら、リモート・ワークは願ってもないことのように思えるかもしれません。また、「リモート・ワークだから自分の好きな時間に好きなように働ける」とか、「世界を旅しながら働ける」などといった幻想を抱く人もいるかもしれませんが、リモート・ワークとはあくまで「ワーク(仕事)」をするための体制です。「リモート・ワークだったら、あれもできる、これもできる」と考える前に、「チームがベストに機能するためには、自分はどうある/するべきか」を優先的に考え、そこに注力すべきです。チームに属する一人ひとりが最善の力を注いだ時に、リモート・ワークから最高の実りを刈り取ることができるでしょう。

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コロナ禍に必要なコア・バリューとは?
どうでしょうか。皆さんの会社には、平時のコア・バリューが既に存在するかもしれません。しかし、「リモート・ワーク」という新しいチャレンジに直面する中で、それを会社のみんなで乗り切るための、「リモート・ワークのコア・バリュー」を定義して、皆で認識し、それに基づいて行動していくのも一案です。

私の会社はアメリカのロサンゼルスにありますが、今年の春先にコロナの感染が拡大して「ロックダウン(外出禁止令)」が始まった時に、私の会社でも「コロナ時代を乗り切るコア・バリュー」を打ち立てました。その中で、この会社同様、「コミュニケーション」をコア・バリューのひとつとして定義しました。私が日本で、そしてスタッフがアメリカで仕事をするうえで、今まで以上に密にコミュニケーションをとっていくこと、それも、タスク・ベースのコミュニケーションばかりではなく、お互いの感情を共有していくことが重要だと思ったからです。

この混沌として不確かな時代を乗り越えていくためには、どんなコア・バリューが必要でしょうか。皆さんの会社でも、ぜひ、考えてみてください。

記事/ダイナ・サーチ、インク 石塚しのぶ