コア・バリュー・リーダーシップ

自然を愛する人々がつくったブランド:パタゴニアの事例
かつては「質の良い商品」をつくり、それが生活者の手に簡単に行き渡るように流通チャネルを整え、マス広告を通じてその機能を的確に説明して、ひとりでも多くの人の耳に届くようにすれば売れた。だが今日では、たとえば「サステナビリティ(環境・社会・経済の持続可能性)に配慮する企業から買うことが重要」と考える生活者が83%を占めている。商品の質が良いことは当然であって、それだけでは購買意思決定の決め手にはならない。

その中で、アウトドア用品ブランドのパタゴニアのような会社が熱烈な支持を集めている。パタゴニアは、熱狂的なアウトドア愛好家により1973年に設立された会社だが、設立以来一貫して、そのコア・パーパスである「ビジネスを手段として環境危機に継承を鳴らし、解決に向けて実行する」を一挙一動に反映させ、実践してきている。(筆者注:2020年現在では、「地球を救う」という新しいコア・パーパスになっている。)

自らを「アクティビスト企業(活動家企業)」と銘打ち、環境の保護と保全こそがビジネスを営む理由であり、日々の仕事であるとホームページ上でも名言している。そして、事業活動、政治活動、フィランソロピーを通じて能動的に働きかけている。

あらゆる方策で環境問題に一石を投じる
2002年から創設者のイヴォン・シュイナードが発起したグローバル・ムーブメント「1%フォー・ザ・プラネット」のもと、売上の1%を世界中で認可を受けた3000以上の環境団体に寄付している。それだけでは飽き足らず、アメリカではホリデー商戦のスタートとなる、感謝祭翌日の金曜日の特大セール「ブラックフライデー」の売上の100%を当該団体に寄付するという「100%フォー・ザ・プラネット」を立ち上げ、初年度の2016年にはおよそ10億円を寄付するという偉業を成し遂げた。

寄付活動ばかりではなく、地域の環境団体とタイアップで従業員に有給のボランティア機会を提供したり、選挙の日には店舗を休業にして従業員が投票しやすくするなど、従業員の市民としての社会参加や政治参加を積極的に後押ししてもいる。

今年6月まで12年にわたりCEOを務めたローズ・マカリオの指揮のもと、パタゴニアはナショナル・モニュメント(日本の国定公園に似た位置づけの保護区域)の削減をめぐりトランプ政権を提訴するなど、環境保護・保全をめぐる活動をますます過激化・強化してきた。しかし、それが顧客の反感を買うどころか、同社に対する支持をより一層熱烈かつ堅固なものにしている。この10年間で、パタゴニアの年商は約4倍になっているという。

「アンチ・コンシューマリズム(反消費主義)」を訴えつつ売上拡大
2011年のブラックフライデーに、パタゴニアは米全国紙「ニューヨーク・タイムズ」の一面広告を買い、「このジャケットを買わないでください」とのキャッチ・コピーのもと、商品をむやみに買い替えるのではなく、修繕・再利用・再生することの大切さを訴えた。同年にパタゴニアはイーベイと提携し、イーベイのプラットフォーム内に顧客が古着を売買できるマーケットプレイスも立ち上げた。(注:これは今日では、「ウォーン・ウェア(Worn Wear)」というパタゴニア認定中古品販売事業としてパタゴニアのEコマース・サイト内に統合されている。)

いわば「アンチ消費」を訴えるメッセージや活動にも関わらず、年々順調な売上拡大を実現している。これは、企業がその信条に徹底的にこだわり、ぶれのない活動をすればするほど、顧客はより熱狂的にその企業を愛し、お財布をもって支持するのだということを立証するものだろう。

「エコロジー」や「サステナビリティ」がある意味流行語のようになっている今日、それを宣伝文句に掲げることはたやすい。しかし、コア・バリュー・リーダーは、それが仮に業績にマイナスの影響を与える危険があったとしても、言行一致を徹底し、事業方針や活動にコア・パーパスやコア・バリューを反映させ、実践していく。それがコア・バリュー・リーダーの特徴である。

(注:本記事は、『コア・バリュー・リーダーシップ 石塚しのぶ著 PHPエディターズ・グループ』から抜粋、加筆、修正したものです。)