本記事は、コア・バリュー経営協会会員向け記事として作成されたものです(2018年7月31日)。

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「肯定的信条」が健全な組織をつくる

知らず知らずのうちに、私たちの生き方を左右する「力」がある。それは「信条」、私たちが信じていることだ。

私たちが信じることが本当だとは限らない。しかし往々にして、人は自分が信じることを助長する方向に動くものだ。私たちの日々の生活に、私たちの「信条」がどう作用しているのか、また、「信条」が職場のあり方にどのような影響をもたらすのか、じっくり観察してみると興味深い洞察に目が開けてくる。

会社のリーダーが自分の信条が自分の考え方や行動に与える影響を認識することは、会社全体にとって必要なことだ。なぜかといえばそれが会社の生産性に大きく関わるからだ。自分の信条についてより良く理解できれば、それを変えることもできるし、結果として仕事や世の中との関わり方も変えることができる。

信条が行動をつくる
理屈はシンプルだ。リーダーの信条が組織の行動を左右する。誰にでも「信じていること」がある。それに従って、人は日々の意思決定を下し、行動を起こすのだ。リーダーが自分の「信条」に従って行動を起こすと、その行動が周囲の人の「信条」に影響を与えていく。影響された「信条」に基づいて周囲の人は行動を起こすが、それはたいていの場合、リーダーの「信条」を助長し、会社内の「現実」を形作るものとなる。

たとえば「人材教育」を例にとって考えてみよう。人材教育は無駄だと信じるリーダーがいるとする。すると当然、必要最低限の教育しかしないだろう。従業員はそこで、会社に自分の価値が認められていないと感じ、この会社に自分の未来はないと信じる。結果として、従業員も必要最低限の仕事しかしないだろうし、それを見てリーダーは、やはり自分の信じることは正しかった、教育などにムダ金を費やさなくて正解だったと確信を新たにするだろう。

ならば仮に、このリーダーがもし、「人材教育は会社にとって最大に有益な投資だ」と信じたとする。それは、リーダー自身の振る舞いをどのように変えるだろう。また、従業員が「信じること」にどのような影響を与え、結果として彼らの行動にどんな変化が生まれるだろうか。

「信条」とは根っこのようなものだ。目に見える「行動」は地上に生える草木のようなものだが、草木のあり方は十中八九間違いなく根っこのあり方に連動している。私たちが人の「信条」についてじっくり考えることはまれだ。しかし目に見えるもの、つまり彼らの行動は確実に彼らの「信条」の反映である。信条を変えれば、すべてが変わる。

【課題1】
貴社の事業、市場、あるいは会社組織の在り方について、「これが現実だ」と信じていることを三分間で書けるだけ書き出してみよう。
例:社員の会社に対する最大の不満は「給料が安い」ことだ/顧客は常に値切る機会を探している/新しい競合が次々と進出してきて、市場には成長の余地がない

信条はつくられる
「信条」はどこから来るのか。「持って生まれた信条」などない。「信条」は髪の色や、目の色や、肌の色とは違う。「信条」とは、「学ばれる」ものだ。特に、若い頃に、親や教師や友人など信頼する人から学ぶ。私たちの「信条」が「現実」をつくるから、仮に二人の人がまったく同じことを体験しても、それぞれ「信条」が違えば、解釈がまったく異なることがある。

大人になる頃には、「信条」と「行動」との一致が極めて重要になる。もし、それがプライベートに関することであれ、ビジネスに関することであれ、私たちの「行動」が、「信条」に沿っていなかったら歪が生じるだろう。もし、リーダーの「個人的信条」が、組織の価値観やビジョンと合致していなければ、会社としての方向性は定まらないものになるだろう。リーダーとして会社を切り盛りできないとまでは言わないが、常に直感的には、自分の「個人的信条」に沿って行動するため、会社の目指す方向性とはずれが生じてしょっちゅう軌道修正をしなければならなくなるだろう。

先にも述べたように、行動は常に信条に左右されるからだ。会社の価値観やビジョンは、「こうあるべき」という理想に基づいて決められることが多い。そしてそれが無意識のうちに、個人の「信条」と食い違っていることが多い。すると人は自分の「信条」に従って行動するので、会社の価値観やビジョンと行動の結果がかみ合わないことになる。だから、自分の「信条」がどんなものであるかを認識することが必要なのだ。心理学者のユングの言葉にあるとおり、「無意識が認識されないうちは、あなたはそれを変える力を持たない。『無意識』があなたの生き方をコントロールし、それをあなたは『運命』と呼ぶであろう」

【課題2】
課題1で書き出した「信条」を、会社の価値観やビジョンに照らして考えてみよう。あなたの「個人的信条」と、会社の価値観やビジョンは合致しているだろうか。どこにギャップがあるのか。そのギャップを埋めるためにどんなことができるだろうか。

肯定的信条が、肯定的結果を生む
「信条」には三つの種類がある。否定的信条と、中立的信条と、肯定的信条だ。その名の通り、否定的信条は否定的な結果をもたらし、肯定的信条は肯定的な結果をもたらす。中立的信条はさほど影響力をもたない。

否定的信条は否定的な結果しか産まない。プライベートであろうとビジネスであろうと、それだけは確かだ。否定的信条から肯定的な結果を生もうとしてもできるわけがない。否定的信条も「何らかの」結果を生みはするが、それが肯定的になることは決していない。結婚生活に関する否定的信条は離婚につながり、従業員に関する否定的信条は解雇につながる。否定的信条のうえに、意義深く、健全な組織が築けるわけがない。それが認識できれば、問題はいかに肯定的信条でもって組織をリードするかだ。

組織を良い方向に変えるにはどうするか。リーダーが自分の行動を変えるためには、まず自分の信条を変えなければならない。否定的信条を、肯定的信条に意識的に取り換えることから始めよう。「人は常に自分の利益を優先する」という信条があるとしたなら、それを、「たいていの人は世の中のために良いことをしたいと思っている」という信条に取り換えよう。「従業員は給料を貰うためだけに会社に来ている」という信条があるとしたなら、「従業員は会社の経営に参加し、会社という共同体をみんなにとって働きやすく幸せな場所にするために会社に来ている」という信条に取り換えよう。優れたリーダーとは自分が持っている否定的信条を肯定的信条に変え、会社や仕事に対して皆が抱いている否定的信条を肯定的信条に変えるよう導くことができる。それが健全な組織を築くのだ。

【課題3】
現在、会社が抱えている「問題」をひとつ書き出してみよう。そして、その「問題」について、自分が「信じていること」を書き出す。その「信条」を180度転換させるとどうなるだろう。否定的信条を肯定的信条に取り換えたら、どんな結果が望めるだろうか。

*注:本記事は、米スモール・ジャイアンツ・コミュニティによるインタビュー記事に基づき、ダイナ・サーチが独自の視点や見解を加えて作成したものです

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