コア・バリュー・リーダーシップ

リモート・ワークの時代だからこそ求められる「心のつながり」
「インターネット・エイジ」が進行するにつれて、企業が自らを「コミュニティ」として考えることが必要不可欠になってきています。

かつては、「家族」のような関係性を持った会社が多く存在しましたが、近代化が進むにつれて、「雇い手」と「働き手」の関係は希薄になり、会社とは単に「労働」に対して「給料」という代償をもらうところ、と考える人が増えてきました。そういった関係には働き手の心の投資や、会社との心のつながりが介在する余地はありません。

そこに拍車をかけているのが、パンデミックにより余儀なくされた「テレワーク/リモートワーク」、そしてそれに伴う「ジョブ型雇用」のバズワード化です。

はじめに明確にしておきたいのですが、これから私が述べることは「ジョブ型雇用」に頭ごなしに反論するものではありません。業種によっては、「プロジェクト・ベース」の働き方が一般的なものもたくさんありますし、そういった環境の中では、専門職の人材がスキル・ベースで雇われることは何も珍しいことではありません。

ただ、「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」を対極に置き、「ジョブ型雇用=時代にあった働き方」「メンバーシップ型雇用=古い働き方」と単純に定義づけることには注意を促したいと思っています。

私は、今後、「テレワーク/リモートワーク」のような働き方が「普通」になる時代が来るからこそ、なおさら、「人と人とのつながり」や「共通のアイデンティティ」「相互理解」「信頼」「協力」「助け合い」などといった、「ソーシャル・キャピタル(社会資本)」を創出するためのグループとして、会社を捉えなおす必要性が生じていると思います。「そこに属しているからこそ」よりやりがいのある仕事ができる、より大きなビジョンを実現できる集まりとして、会社というものを重視する必要があるということです。

「居場所」としての会社をつくれるか?
「コミュニティ」であるということは、そこに属する人たちが、共通の「目的や価値観」で結ばれているということ。そして、「個人」と「個人」の間に感情的な「つながり」があるということ。さらに、「信頼」や「尊重」や「助け合いの精神」を前提とする、「心理的に安全な環境」が存在するということです。こういったメリットが存在しなければ、「コミュニティ」と呼ぶことはできません。

大勢の人が集まるだけでもそこに力が生まれますが、それだけでは十分ではありません。「私たちの目的は何なのか」「社会にどのように貢献するのか」を明確に定義して、会社に属する全員で共有して、その大義名分のもとに皆の力を束ねることで、会社はパワーを発揮します。

働く人が、会社を「自分の居場所」であると感じることができれば、「自分らしさ」や「自分の持てる力」のありたけを発揮できます。そして、会社に属する「人と人とのつながり」が強まれば強まるほど、組織としての強度はますます強固なものになります。

今日、顧客との関係性を「売り手と買い手」ではなく「人と人」へ、働く人との関係性を「雇用者と従業員」ではなく「人と人」へと転換できる企業こそが、未来の企業です。商品やサービスの利用を通して便利になるだけではなく、心が豊かになる、消費することで住みたい世界に一歩近づける、そんな経済活動を営む「コミュニティ型ビジネス」が続々と頭角を現してきています。

「メンバーシップ型雇用=年功序列」など、ネガティブな側面ばかりがクローズアップされる傾向にありますが、だからといって「ジョブ型雇用」を手放しでもてはやすのではなく、従来型の「メンバーシップ型雇用」の悪いところ、足りないところには積極的にメスを入れていくべきでしょう。実際に、アメリカでコア・バリュー経営を導入している企業の中には、いわゆる「メンバーシップ型雇用」でありながら、年齢や性別や役職のあるなし、職種にさえ縛られずに、働く人一人ひとりが自分のアイデアや能力をフルに発揮できる組織の形を実現している会社もたくさんあります。

企業が、働く人、そして顧客と、共通の目的と価値観で結ばれる「コミュニティ」になることが求められている時代に、企業がコア・パーパスコア・バリューを打ち立て、それを忠実に実践していくことにより、真に魅力ある会社をつくっていく「コア・バリュー経営」への注目がより一層高まっています。

(注:本記事は、『コア・バリュー・リーダーシップ 石塚しのぶ著 PHPエディターズ・グループ』から抜粋、加筆、修正したものです。)