コア・バリューの制定から六年の節目を迎えたマテックス株式会社。東京池袋にある本社を訪問し、松本浩志代表取締役社長にお話を聞きました。

マテックスは関東一円で窓ガラスを扱っている卸売り会社。昭和三年創業で九十一年のたいへん長い歴史をもつ会社さんです。
マテックス、松本社長

松本さんが三代目社長として就任されたのは2009年のこと。その際に、未来に向けてどう会社を導いていったらいいのか、そもそも、社会においてマテックスはどういう存在であるべきなのか、を時間をかけて考える機会があったそうです。そこで考えたのは、やはり「経営理念」があるべきなのではないか、ということ。そこで、先代の時から会社を守ってきた先輩方にヒアリングをしつつ、自分なりの「経営理念」をまとめたということです。

はじめは、「経営理念」を軸にやっていこうとしていたのですが、「経営理念」は社員がみんなで実現しなければただの言葉で終わってしまうと感じ、「全員参加」の経営アプローチについて自ら調査したところ行き当たったのが「コア・バリュー経営」だったそうです。

matex fairの写真

マテックス独自のコア・バリューを制定したのは2013年の6月。「コア・バリュー」という言葉では皆にわからないので、「マテックスらしさ」や「マテックスが大切にしたい考え方・価値観」と言い換えて社員の意見を聞いたところ、二百個をこえる「コア・バリュー・ワード」が出てきたということです。それらを共通項で括って整理整頓して社員さんに戻して、また意見を聞いて・・・などということを繰り返して、最終的に十個のコア・バリューにまとめ上げました。

松本さんは、「自分で考えて、行動して、成果を手にすることが職業人としての成長につながる」と考え、「コア・バリュー」という軸に則って考え、行動することで、仮に若くて経験の乏しい人も安心感をもって挑戦できる、それが「コア・バリュー経営」のメリットのひとつだと考えています。コア・バリューをもってして、まさに「全員参加の経営」を実現しているということです。

マテックス、オフィスの皆さん

いろいろとお話を聞いていく中で一番印象に残ったのは「対話」の大切さと、「時間をかけて辛抱強く取り組む」ことの重要性でした。コア・バリューを浸透させる、のは口でいうのは簡単でも、実践するのは難しい。その中で松本さんが社長として意識的に取り組んできたのは、社員の一人ひとりと向き合う「対話」の場をつくるということだそうです。関東一円に十か所ある営業所(関連会社を含めると十二か所)を松本さんが訪ね、お茶を飲み、お菓子をつまみながら経営理念やコア・バリューについて社員と語り合う『経営理念浸透カフェ』は2009年から着手し、今も続けている取り組みだとか。

社内のミーティング

「石の上にも三年」と言いますが、経営理念もコア・バリューも「三年」を節目として取り組んできたということです。先述のように、コア・バリューは2013年に制定されていますが、やはり三年くらいが経過したところで、会議の席でもコア・バリューがしぜんと語られるようになり、イベントの企画においてもコア・バリューに基づいて企画する・・・などということが活発に行われるようになってきたといいます。制定から六年めを迎えて、社員さん主導でコア・バリューの見直しを行うプロジェクトも進行中のようで、私が本社を訪問させていただいた際も、総務の皆さんが各々「これ」と思い提案する「新コア・バリュー」について熱く語ってくれました。

松本さんは、「超越した会社」は、よく言われるところの経営の三代資源「ヒト、モノ、カネ」ならぬ、「七大資源」を使いこなす会社であると考えていて、残りの四つの要素のうちひとつが「企業文化」であると定義しています。ただし、企業文化は「やれ」と命令されてできるものでもなく、会社に属する皆が方向づけをして、対話し合って、考えて、行動してこそ醸成されていくものであるので、その際に「コア・バリュー」を軸として、皆で考えて、行動して、一致団結し、お互いに認めあい、守り立てていく、そのプロセスそのものに価値があると話していました。このお話に、まさに「我が意を得たり」と感じました。一刻も早く成果を出すんだと躍起になり、半年や一年で「リターン」が得られなければ息切れしてしまう、放り出してしまうという経営者も多い中で、コア・バリュー経営の実践、ひいては企業文化の醸成にはこういったトップの経営者の「辛抱強さ」と「コミットメント」が必要だと思います。

最後に、「コア・バリュー経営をやってよかったと思うこと」を聞いてみました。ひとつには、顧客やメーカーさん、協力会社など外部の方々からの評価。「マテックスさんの社員さんは違うね」と言われることが社長さんとしては何より嬉しいそうです。「仕事のための仕事」をするのではなくて、個々が「仕事を通してこんな貢献をしたい/こんな自分になりたい」という目的意識をしっかりと持った働き方をしていることがはっきりと目に見えてわかり、外部の人たちからも評価されているということです。

また、もうひとつ嬉しかったこととして、ご自身の体験談を挙げてくれました。数年前のこと、松本さんは体調を崩し、三週間ばかり身動きが取れなくなったことがあったそうです。その際に、ある社員さんが「こういう時のためのコア・バリューですよ」という言ってくれたということなのです。社長がいるから会社が回るのではなく、コア・バリューという基盤があるから、それに則って考えて、行動することで、皆やるべきことをやりますよ、安心してください、と。その言葉を聞いた時、あ、ちゃんと理解してくれてるんだ、と、社長さんとしてはそれが非常に感動的な瞬間だったということです。

マテックス、松本社長とダイナ・サーチ、石塚

「仕事のための仕事じゃない」「皆が参画する」「自分の人生の目的を全うする場・仲間として会社(=マテックス)がある」ということをキーワードとして会社が確立されてきているという手ごたえが六年目にしてしっかりと感じられるようになってきた、ということでした。コア・バリュー経営が目指すのは、まさしく、個々が自分のありのままを表現し、自分の能力を最大限に活用して、人生の目的を全うできる会社・文化の醸成です。昨年からは「マテックス・カレッジ」という企業内大学制度も導入し、より一層の発展を目指しておられる姿に大いに刺激を受けました。

取材・記事/ダイナ・サーチ、インク 石塚しのぶ