コロナの時代だからこそ、コア・バリュー経営が強さを発揮する
先の10月21日(水)、コア・バリュー経営協会の運営委員のひとりでもあるマテックス株式会社松本浩志社長が、「全国社会保険労務士会連合会」主催のフォーラムで『コロナの向こうの職場づくり―企業文化づくりがキーワード』という題でスピーチをされ、そのウェブ配信を幸いにも聴講することができました。非常に素晴らしい内容だったので、私の感想やコメントも含め、以下に皆さんとシェアしたいと思います。

まず、このブログの読者の皆さんの中には、コア・バリュー経営協会の会員ではない方々、つまり、マテックスをご存じでない方々もいらっしゃると思いますので、簡単な紹介から。

マテックス株式会社は、昭和3年創業の、92年の長い歴史をもつ建築用ガラス、サッシの卸業者さん。本社は豊島区上池袋。年商は150億円超。社員数は総勢約300名の会社さんです。

マテックスさんは「窓から日本を変えていく」というスローガンを掲げ、志と社会意識を非常に高くもった事業展開をされています。私も、マテックスさんに出会ってから気づかされたことなのですが、「窓」というのはとても社会性の高い商材。「防犯」「防災」「防音」「省エネ」「健康維持・増進」など、私たち個人の健康に関与するばかりではなく、環境保全といった大きな社会的な問題にも貢献するのが「窓」なのです。

そして、さらに「地域事業者と共創し、生活者の豊かな住まいづくりのソリューション(解決策)をお届けする」をコア・パーパス(企業の社会的存在意義)に掲げ、ただ右から左にモノを卸すのではなく、地域に密着し、町のガラス屋さんやサッシ屋さん、工務店さんと共に成長し、業界全体を良くすることによって自分たちも良くなっていくことを目指しています。

理念からコア・バリューに:マテックスの歩み
松本社長は三代目として2009年に社長に着任。その際に、初代や二代目社長が「大切にしてきたこと」について先輩社員にヒアリングを行い、「受け継いでいかねばならない思い」を「理念」としてまとめたそうです。しかし、社長である自分が独力でまとめた「理念」に対して、マテックスという会社を、「皆で考え、皆でつくっていく会社にしたい」という強い思いがあり、そのアプローチについて模索していた際に「コア・バリュー経営」にたどり着いたのだそうです。

マテックス株式会社、松本社長

2011年頃だったと思いますが、松本社長から丁重なメールをいただいた日のことを今でもまるで昨日のことのように覚えています。その後、「コア・バリュー経営」を実践している企業を実際に見、経営者の話を聞くべく、私の企画でラスベガスのザッポス本社を訪ねたり、シカゴ地域の『スモール・ジャイアンツ』を訪問したりしました。

企業文化を、その「根っこ」となる「コア・バリュー」からつくっていかなくては、「いい職場」はできないのではないか。社長からの押し付けではなく、会社の皆が大切にしている/大切にしたい価値観とは何なのだろう・・・ということを突き止めたいと思い、社員からアイデアを募ったところ、二百数十個の価値観が上がってきたそうです。そこから、重複や類似している点を整理整頓して、10のコア・バリューにまとめました。2013年のことです。

このコア・バリューも今年2月にリニューアルされました。その内容はここではあえてリストしませんが、とてもユニークなコア・バリューですので、マテックスさんのホームページで是非見てみてください。

あの手この手で企業文化を醸成
マテックスさんでは、企業文化やコア・バリューの浸透について、驚くほど数多くの取り組みをしておられます。日々の仕事とコア・バリューを照らし合わせて、社員一人ひとりが心に思うことを共有する「コア・バリュー・スピーチ・リレー」。「称賛」をテーマに毎年12月に開催している「マテックス・ライブ」では、社員がグループに分かれてワーク・発表を行います。また、「アカデミー賞をねらえ!」というユニークなイベントでは、社員さんが35のグループに分かれて「環境」をテーマにショートムービーを制作し、完成した作品を皆で視聴してそのメッセージについて討議しました。他にも、地域の小学校に赴き、子供たちに窓に触れながら環境問題について考えてもらう出張授業を行ったりもしているそうです。

コロナにも負けない、企業文化育成で培われた組織のレジリエンス
このように、「アナログ」でのイベントに精力的に取り組んできましたが、コロナ禍で「集まる」ことがままならなくなってしまいました。しかし、「コロナだからしょうがない」とあきらめるのではなく、「デジタル」を駆使し、様々な取り組みを続けています。

極めつけは、つい先日行われた「マテックス・フェア」です。毎年恒例のイベントで、取引先のガラス屋さんやサッシ屋さんを招いて行う展示会ですが、例年は会場を貸し切り、社員の皆さんがブースを出して、そこに来場者を迎える形で行っています。今年はコロナ禍で「中止」や「延期」という選択肢もありましたが、それを決行するにあたって、ただ短絡的に「デジタルで」というのではなく、「マテックスらしさ」を出すにはどうしたらいいか、と社員の皆さんが智慧を絞って考えたそうです。その結果、「マテックスらしさ」はやはり、「ヒューマンな要素」だということになり、なんと、まるで普通の展示会をやるように会場づくりをし、ブースを設置して、しかし、ブースでの「接客」はズームを用いて「ライブ配信」する形で行ったというのです。

各ブースを担当する社員さんたちが、カメラの前で、ヘッドセットをつけて「来場者」とネットでつながって提案をする・・・そういったユニークなイベントになったということです。窓の流通という比較的アナログな業界において、取引先である町のガラス屋さんやサッシ屋さんに「デジタル展示会」を体験してもらうというのは、事前の説明やサポートを要する大がかりな取り組みでしたが、これはまさに、「地域事業者との共創」というマテックスのコア・パーパスを具現化するものになったといいます。

コロナ禍で、「会社に来られない」「集まれない」「在宅」という不自由を強いられている反面、そういった制限にも負けず、「では、どうしたらいいか」と考えて現実にもっていく社員さんたちの姿は、これまで同社が長い年月をかけて企業文化の醸成に取り組んできた、その成果が花開いた証(あかし)に他なりません。「決してあきらめない」という筋力、企業力、組織のレジリエンスが養われているのだと感じました。

「企業文化育成に割く時間がない」という経営者へのメッセージ
最後に、セッション中に投げかけられたある質問をシェアします。その質問とは、「顧客対応や営業といった『業務』に直結しない企業文化やコア・バリューへの取り組みに時間を割く余裕がない、という経営者にどう答えるか」というものでした。

松本社長は、「企業文化やコア・バリューへの取り組みに時間を割く余裕がない」というのは、「余裕がない」のではなくて、「自分たちはどうありたいのか」「どういう会社をつくりたいのか」という経営の指針が定まっていないからではないか」と指摘していました。会社として「こうありたい」「こうなりたい」が定まっていれば、おのずと「何をすべきか」の優先順位は定まってくるはずだ。そして、それが定まった時点では、企業文化の育成に「時間をかけない」という選択肢はもはやないのではないか。これは、まさに心髄に触れる言葉であると思いますし、松本社長の回答に私も深く共鳴します。

企業文化やコア・バリューへの取り組みは、長期的には、会社という組織を強くする、社員の満足度や働きがいを高めることに確実につながります。マテックスで毎年行っているエンゲージメント調査でも、五段階評価で「4」や「5」といった高評価が回答の8割以上を占めるそうです。社員の「働きがい」を持続させるには、「仕事一点張り」ではない、「個人が自分の成長を実感できる環境づくり」が必要であり、それが働きがいの持続につながり、個々の社員の向上心にもつながる。それが真の意味での「企業力」であり、会社の「強さ」の源であり、マテックスの事例は、企業文化、そしてコア・バリューのパワーをまさに具現化するものではないか、と心を揺さぶられたお話でした。

全国社会保険労務士会連合会、Beyond CORNA 働き方改革フォーラム「コロナの向こうの職場づくりー企業文化づくりがキーワード」の動画はコチラ

記事/ダイナ・サーチ、インク 石塚しのぶ