本記事は、コア・バリュー経営協会会員向け記事として作成されたものです(2017年6月30日)。

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「社員の夢を叶える」ことをビジョンに躍進する

歴史の先生を志していた人が、なぜIT企業のCEOになったのか

「アメリカで最も優れたスモール・ビジネス25社」のうち一社に選ばれた「スモール・ジャイアンツ」企業のCEOは、教員免許をもち、もともとは歴史の先生を志していたという。しかし運命のいたずらで、先生にはならずに代わりに営業職に就き、今の会社に1997年に営業マネジャーとして入社した。15番目の社員であり、創設者により雇われた最初の「管理職」であった。当時、会社は年商3億円に手が届くか届かないかの規模。売上増加をにらんで営業チームの育成に励むうちに、自分の情熱は「人の育成」にあると気づいた。そして偶然目にしたジグ・ジグラー(アメリカの自己啓発作家)の言葉が、彼の人生を変えることになる。

「人が望むものを手に入れる、その手助けをすることが、自分の欲しいものをすべて手に入れることにつながる」

その言葉こそが、同社の企業文化の礎となった。同社の社員エンゲージメント・プログラムの根底にある哲学が、まさにその言葉だ。

2002年に社長に就任した際、会社のフォーカスを「社員」に置くことに決めた。まずは、「会社にあった人材」、つまり「会社の情熱を共有できる人たち」を採用することが先決だと考えた。そして個々の社員の会社への貢献や実績が皆に認められ、称えられ、報われる会社をつくることを目標に据えたのだ。同社は優れた顧客サービスの提供でも有名だが、同社が掲げる「ビジョン」こそがもうひとつの差別化要因だと同氏は考えた。

また、会社やその事業はもちろん重要だが、最も重要なのは「人」で、それに勝るものはないと考えた。それが同氏の信条であり、会社の社員全員がそれに共感しているという。同社の事業は企業にITサポートを提供すること。つまり、サービス・ビジネスであり、その価値はサービスの販売にあたる「人」の質や、営業やサービス・チームをサポートする「人」の質で決まる。従って、最高のサービスを提供するためには、最高の「人」が必要だということになる。「社員の『人』として、『プロ』として、そして経済面でのゴールの達成を助ける」という同社のビジョンはその考えに基づいている。

社員第一主義

同社のアプローチは「社員第一主義」だというが、これは日々の業務活動においてどのように実践されているのだろうか。

同社のリーダーシップがまずやることは「何を達成したいのか」を社員に聞くことだという。それがわからなければ助けようもないからだ。社員の一人ひとりが会社に働き始めた日を「私の人生が変わった日」と宣言できる会社を目指しているという。

社員一人ひとりのゴールは「個人」として、「プロ」として、そして「経済面」という三つの側面から定義される。「プロ」としては、「何」になりたくて、それは「なぜ」なのか、そして、そのゴールが彼らの日々の生活の中にどうフィットするのかを社員に話してもらう。同社では「ワーク・ライフ・バランス」という概念は虚構にすぎず、むしろ本当の答えは、「ワーク(仕事)」と「ライフ(パーソナル・ライフ)」の融合にあると考えている。だから「プロ」としてのゴールが、いかに個人の生活の向上につながるのかを考えるのだ。

また、同社では、「ビジョン・トーク(ビジョン面談)」のやり方と、ゴール設定のプロセスをリーダーシップ・チームに叩き込む。例えば採用面接時に、「会社が『個人・仕事・経済面』のゴールをサポートする」と聞くと人は素晴らしいと考えるが、いざ入社してみると自分のゴールについて明確な考えをもたない人が多い。どの社員も年間に二回、直属の上司と「ビジョン・トーク(ビジョン面談)」を正式に行う。また、全社的にはゴール設定のやり方について詳しく教える社内研修プログラムを設けている。社員であれば誰もが受けられるプログラムで、実践・測定可能な形でゴールを定義し、レイアウトする方法を教える。

個人のゴールを助けることが、会社のゴールを助ける

同氏が社長に就任した1997年以来、同社は年間平均二桁台の成長を達成し、11州に営業地域を広げ、25か所に営業所を構えるまでに至った。社員個々のゴールを支援するという仕組みは、急速な成長の中でどのように維持されているのか。

業務が拡張する中で、「ビジョン・トーク」や「ゴール設定」のプログラムを維持していくことは容易ではなかったが、同氏はこれらが会社の成長を支えるプログラムであると考えていた。そこで、リーダーがチーム・メンバーの指導に活かせるよう、「ビジョン」と「ゴール」設定のプロセスをテンプレート化した。今日では、社員の全員がこのテンプレートに自分のビジョンとゴールを記入し、それを社内イントラネット上に保存する。プライバシーを守るために、各社員のテンプレートを見ることができるのは、その社員自身と、社員の直属の上司、そして社長だけだという。このテンプレートが、プログラムの拡張を助けてきた。

今日までに、同社の社員が達成したゴールは600件を超える。それはマイホームの購入から子供の結婚式の資金繰り、そして憧れの街に住居を構えることまで、多岐にわたる。ゴール達成のためには継続的な対話が必要だと同社では考えている。マネジャーとチーム・メンバーの「ビジョン・トーク(ビジョン面談)」は年に二回のみだが、年間を通してよりカジュアルな非公式の交流が行われている。個々の社員に頻繁に声をかけ、各々がゴールを達成できるようサポートしているのだ。

このように、同社では社員のゴール達成を積極的にサポートする仕組みが整っている。ゴール達成のために同社が社員に指導していることのひとつは「タイム・マネジメント」だ。自らのゴール達成のために社員が会社のリソースを最大限に活用することを同社では望んでいる。会社が社員に「奉仕する」姿勢を見せることで、社員が顧客に「奉仕する」文化ができるのだと同社では考えている。

「社員エンゲージメント」とは何か?

会社が社員のためにピザ・パーティを主催することや、ペットを連れて来られるオフィスをつくることが「社員エンゲージメント」を高める、と誤解されがちだが、もし、そうしたうわべだけの仕掛けでは社員のハピネスは得られない。もっと深い、本質的なところを突かなければ、と同氏は語る。

「社員エンゲージメント」には無視できない二つの側面があると同社では考えている。ひとつは「社員が会社への貢献を実感できること」。自分の仕事が会社にどんなインパクトを与えているのかを認識し、「自分の仕事には意味がある」ことを実感すること。そしてもうひとつはその貢献に対して「認められ、称賛され、報われること」である。

先にも述べたように、同社のビジョンは「社員の『人』として、『プロ』として、そして経済面でのゴールの達成を助ける」ことだ。会社がその妨げになるのではなく、むしろ、「この会社に働いているからこそ、ゴールを達成できた」と感じて欲しいと同社では願っている。そのために、十分なサポートと、教育と、チャンスを与える。「ペットを連れて来られる職場」や「ピザ・パーティ」やその他諸々のことは「おまけ」にすぎない。良い企業文化づくりは、「社員のため」を考え、「社員のため」に行動することから始まるのだ。

今でこそ、社員のゴール達成をサポートする「仕組み」を備えている同社だが、原点に還れば何もないところから始まっている。ようは「始める」ことだ、と同氏は言う。「社員」から始める。「社長/CEO」から始める。会社全体でなくてもいい。まず、手近なところから、「チーム」から始める。社員一人ひとりと「夢」を語るところから始める。それは一朝一夕にして成るものではない。長い時間と「辛抱強さ」を必要とする。何より、「社長/CEO」が口をすっぱくしてその必要性を訴えていくことだ。「社員第一主義」「企業文化」「コア・バリューの共有」。それらが会社にとって「最重要」であることを断固として訴えていくことだ。それが中間管理職や監督者に浸透すれば、土台ができたことになる。そして、社員の成功譚を共有していくことが、優れた企業文化とその成果を持続させていく燃料になる。

*注:本記事は、米スモール・ジャイアンツ・コミュニティによるインタビュー記事に基づき、ダイナ・サーチが独自の視点や見解を加えて作成したものです

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