本記事は、コア・バリュー経営協会会員向け記事として作成されたものです(2019年5月26日)。

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コア・バリューが「息づく」会社をつくるには:ある製鉄工場の事例

コア・バリューが意味することを定義するのは、自社にとってのコア・バリューが「何か」を明確化することと同等に重要だ。コア・バリューが「何か」を決定しただけで終わりではないということだ。自分の会社にとって、各コア・バリューがどんなことを意味するのか、それを定義して文書化する必要がある。その成果物が「コア・バリュー文書」である。

今回はアメリカのとある製鉄工場の例を見てみるが、この製鉄工場のコア・バリューのひとつは「思いやり」だった。では「思いやり」を形にしたらどういう行動になるだろうか。「思いやり」が意味するところは人によってそれぞれ異なる。だから、「思いやり」の辞書的、あるいは一般的定義で満足するのではなく、「自社にとって」それが何を意味するのかを明確に定義することが必要だ。

この製鉄工場では、社長とリーダーシップ・チームが一丸となり、9か月をかけて各コア・バリューが会社の大多数にとって意味するところを定義していった。会社の全員を対象に意識調査を行い、各コア・バリューが自分にとって何を意味するのか、それを形にするとしたらどんな行動になるかを書いてもらった。あぶり出されたたくさんの意見の中から、会社の大多数が「合意」しているものを2つ、または3つ選び、コア・バリュー文書の中に盛り込んでいった。例えば、「思いやり」を形にすると「お互いの意見に耳を傾けること」という行動になると大多数が合意した。また、「お互いに感謝の気持ちを表現する」ことも、大多数が合意する「思いやり」の行動として浮かび上がってきた。こうして書き上げられたコア・バリュー文書が、会社で働く全員にとって、各自の日々の考え方や行動が果たして「ふさわしい」ものか、判断するうえでの指標となった。

会社の大多数がコア・バリューを理解し、それを尊重し、実践するようになると、目指す文化が形づくられていく。この製鉄工場では、大多数がコア・バリューを実践するようになるにつれて、より優れた、より敏速な、そしてより思慮深いチームが形成されていった。何か問題が浮上すると、まずコア・バリューを確認し、それに沿って話し合いができるようになった。製造業者であるから、問題の多くは工場の現場で起こる。従業員は二つのシフトに分かれて働いているが、頻繁に道具の貸し借りをすることがある。午前のシフトの人が他の持ち場から道具を借りたまま返さずに帰ってしまい、その結果、午後のシフトの人が探しても見つからないためそれがなくなった、あるいは盗まれたと思い大騒ぎになることがよくあった。そういうことがあまりにも頻繁に起こったために、社員の集会でそれが取り上げられた。それもただの「苦情」として話すのではなく、彼らのコア・バリューのひとつである「尊重」に反するものとして提起されたのである。この製鉄工場では、それがかなり重要な問題であったために、コア・バリュー文書に「借り物をしたらすぐに返す」ことを追加した。

日々の生活の中で、コア・バリューを体現する
コア・バリューはただの標語ではない。会社の大多数によって、日々実践され、体現されるべきものだ。それを促すための方策はいくらでもある。この製鉄工場で行われていることを例にあげてみよう。

ゲーム化する
コア・バリューはなにも堅苦しいものではない。コア・バリューを「楽しむ」こともできる。各コア・バリューについて社員が思い思いに描いた手書きの掲示を社内のあちこちに飾ったり、コア・バリューの意味を問う「クイズ」をつくったり、コア・バリューの実践をチームで競い合ったり、コア・バリューに基づき行動している人を同僚同士が指名して表彰するプログラムを運営したり、方法は様々だ。自社の性質に最もよくマッチしたことを試してみればいい。

「今月のコア・バリュー」
この製鉄工場では、新しく定義されたコア・バリューに皆が一刻も早く慣れ親しむことができるよう、「今月のコア・バリュー」プログラムを設けた。毎月、テーマとするコア・バリューを決めて、それをどのように実践、体現したか、社員自らの体験に基づく「ストーリー」を書いて応募してもらうのだ。応募された「作品」の中から、「最優秀賞」を決めて、全社会議で発表、表彰することにより、コア・バリューに対する関心と士気を高めることに成功した。

コア・バリュー・ビデオ
人にはいろいろな学び方があって、人によっては目で見て学ぶ人もいる。「コア・バリュー・ビデオ」はコア・バリューの意味するところを説明するもうひとつの方法だ。また、ビデオは社内での異なる声や視点を紹介するための最適な方法でもある。 上記の「今月のコア・バリュー」プログラムのテーマに合わせて、特定のコア・バリューについて社内のいろいろな人たちをインタビューし、コア・バリューに対する思い入れを語ってもらってもいい。

人事評価
人事評価の基準としてコア・バリューを用いる。個人面談の際に、コア・バリューをどのように実践しているか、社員自ら語ってもらうのもよい。対処すべき問題がある時は、その問題をコア・バリューに結び付けて話し合おう。会社のどのコア・バリューに、どんなふうに反しているから「問題」なのか。コア・バリューに則って、どのように考え、どのように行動すれば「改善」になるのか。社員自身に考えてもらって、答えを出してもらうことが必要だ。例えば、チームの中で、他の人の意見を無視する人がいるとしたら、それは「思いやり」というコア・バリューに反していることになる。「思いやり」というコア・バリューに則って、チームの中の一人ひとりの意見に真剣に耳を傾けることが改善になる。

感情知性を磨く
コア・バリュー経営の実践において欠かせないのは「学びと成長」である。いかにして社員が「学ぶ」環境をつくれるだろうか。この製鉄工場では、「感情知性を磨くワークショップ」を定期的に提供し、すべての社員に対してその門戸を開いている。このワークショップは8回のクラスで構成され、自己認識を高める、自分や他人の感情に対する感度を高める、人に伝わる話し方、人間関係のトラブルを解決する方法などといった「ソフト・スキル」を学ぶ。目的は、職場、家庭の両面で、社員がより良く生きられるようにサポートすることだ。

会社の性質はそれぞれ違うから、他社がやることを真似すればよいというものでもない。しかし、何が効果を発揮するかはやってみなければわからない。他社の事例を参考にしたり、会社の皆で独自のアイデアを出し合ったり、できるだけバラエティに富んだことをフットワーク軽く試してみて、「自分の会社に会ったやり方」を見つけてもらいたい。

*注:本記事は、米スモール・ジャイアンツ・コミュニティによるインタビュー記事に基づき、ダイナ・サーチが独自の視点や見解を加えて作成したものです

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