インドのIT企業HCLテクノロジーズ社の社長兼CEO、ヴィニート・ナイアー氏の著者『社員を大切にする会社―五万人と歩んだ企業変革のストーリー』の中には、著者が業績不振に陥った成熟企業を、「従業員第一主義」の企業文化革命を通して、グローバルIT企業を凌ぐ高度成長企業へと転換させた事の顛末が詳しく語られています。

同署でナイアー氏は「ミラー・ミラー(鏡よ鏡)」というプロセスについて述べています。「ミラー・ミラー」とは、経営陣が真摯な姿勢で従業員と対話し、ともに真実を直視すること、そして、組織としての変革の必要性を自覚することを指します。本の中では具体的な方法論も述べられていますが、方法論より何より、最も重要なのは、ナイアー氏が「従業員の声を聴くこと」を最優先に考え、あらゆる策を講じて徹底的に取り組んだことです。その姿勢が従業員に対して、変革の必要性を何よりも強く訴えかけ、結果的に従業員の信頼と心からの賛同を勝ち得るに至ったのです。

働く人の声を聴くのに高度な技術を洗練されたプログラムは必要ありません。先に述べたように、アンケートやインタビューなどオーソドックスな方法で事が足ります。しかし最も重要なのは、経営陣が働く人の声を渇望していて、どんなに手厳しい批判にも耳を傾ける覚悟があること、また、働く人の声は時と場合によらずいつでも歓迎されるということを理解してもらうことです。つまり、働く人の信頼を得ること、これ抜きに、心からの協力を得ることはできません。そして、そういった高度な信頼を得るためには、社長やCEOをはじめトップ経営陣の地道な啓もう活動も必要になります。現場に足を運び、日常の触れ合いを通じて働く人の悩みや不満をキャッチしたり、働く人が誰でも自由に発言できる集会を設けて、自ら矢面に立つなどといった実践的行動が要求されるのです。

記事/ダイナ・サーチ、インク 石塚しのぶ