本記事は、コア・バリュー経営協会会員向け記事として作成されたものです(2017年5月27日)。

ダイナ・サーチ訳注】
筆者は、スモール・ジャイアンツ企業の創設者兼CEOとして企業文化で名高い優良企業を築き、その後、自社の売却を通して大企業のチーフ・カルチャー・オフィサーに就任しました。以下の文章では、その経験から学んだことを書いています。企業文化の「危機」を乗り越えるための五つの智慧はとても参考になります。

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企業文化を徹底的にタックルする-チーフ・カルチャー・オフィサーとして学んだこと-

企業経営において「文化」や「価値観」を重んじるというのは、私にとっては自然な成り行きでした。私にとっては、私が両親に教えられたこと―人に親切にしなさい、尊重の念をもって人に接しなさい―などを実践しただけのことで、何も特別なことではなかったのです。それが「正しい」ことだったというだけのことでした。

しかしやがて、そのアプローチが「道徳的に正しい」というだけではなく、ビジネス的にも成果をもたらすものであるということに気づきました。社員を「業績」や、「顧客」より大事に扱えば、そのぶん一生懸命働いてくれます。彼らが共感できるビジョンを掲げ、経営陣が彼らを「ひとりの人間として」気にかけていること、その貢献に感謝していることを示し、彼らが成長できるように道筋を示せば、会社が危機にさらされた時はその盾になってくれるでしょう。会社に対する信頼があれば、自ずと顧客を喜ばせる活動をしてくれるはずです。

ただし企業文化のROIは単に業績だけに反映されるものではありません。もうひとつのROIはいわば私の利己的な喜びなのですが、経営者として、社員の人生にポジティブな影響を与えているという実感は何にも代えがたいものです。長年、中小企業の経営者として、そして大企業において、社員やその家族の人生に触れ、彼らがより良い暮らしができるよう支援してきたことは、私にとって、どんな金銭的財産よりも誇れるものだと思っています。

企業文化について言えることは、財務上の成果と、社員の幸せと、その二つを天秤にかける必要はなく、両立できるということです。もちろん、会社の経営者として、会社が存続するに足る利益を上げ続け、また社員の幸せに気を配ることは我々の責任であり、義務であるといえるでしょう。

私がかつてCEOを務めた会社では、企業文化を経営戦略の中核に据え、私たちが「何をする会社か」を売り物にするのではなく、「どんな人々が集まった会社か」を売り物にすることにより、業界において最高の価値を提供し、それに見合う代償を得ることができました。「働きたい会社」としていくつもの賞をいただき、社員の離職率も極めて低く、また同業者よりはるかに高い利益を得ることができました。しかし、より大きな会社と合併した際、大企業の一部として、企業文化を維持することは可能か、という難題に直面することになりました。

過去4年間というもの、私は18カ国に社員25,000人を抱え、年間に40件から50件の買収を行う大企業の「チーフ・カルチャー・オフィサー」として、次の命題に取り組んできました。「こんなに規模の大きい会社でも、共通の企業文化を築くことは可能なのか」「もし、業績上、申し分のない成果を上げている会社があったとして、その会社の文化を変えることは可能なのか」「リーダーの『在り方』を変えるように促すことは可能なのだろうか」

この4年間で私が学んだ最も大きなことのひとつは、企業文化の質は、「難題をどう乗り越えるか」「困難な状況においてどう持ちこたられるか/生き残るか」「存続することが果たしてできるか否か」によって決まるということです。

企業文化を育成・維持していくうえでの障壁には次のようなものがあります。

1. トップのコミットメント:企業文化はトップの率先があってのもの。もし、トップの賛同や支援がなければ、やがては立ち消えになってしまいます。

2. 優先順位の変化:もし、業績に集中するあまり戦略やフォーカスが変われば、企業文化に対する社員のコミットメントが衰える恐れがあります。

3. 外からの圧力:大企業、特に上場企業の場合には、短期的成果が厳しく要求されるため、企業文化がそれほど重視されない恐れがあります。

4. 買収や合併:二つの異なる文化が衝突すると、会社全体が共倒れになることもあります。
プロセスの欠落:企業文化はその他の業務プロセスと同じく、「プロセス」です。文書化・具体化されていなければ、消滅の道を辿ります。

5. コスト削減:会社がコスト削減に走る時、報奨や人材開発など、社員が最も重視しているプログラムをカットしてしまう傾向にあります。

幸運なのはこれらの「障壁」はすべて攻略可能であるということです。第一に、トップ経営陣の企業文化に対するコミットメントが揺るぎないものでなくてはなりません。状況が困難な時にも、CEOが企業文化や、価値観や、社員エンゲージメントを「戦略」として重視し、一貫したメッセージを送りつづければ社員の信頼を得ることができ、社員たちも自信をもって取り組むことができます。

第二に、社内に一貫性がなくてはなりません。これは縦と横、両方の連携においてです。つまり、社内のどこに位置するか、経営サイドなのか現場なのか、どの部門・部署、あるいはどの支社・営業所に属するかに関わらず、トップ経営陣からも、また、日々、業務を共にしている中間管理職や現場の監督者からも、企業文化について同様のコミットメントを感じることができるということです。

第三に、社内を通じて共通したパフォーマンス管理と評価の仕組みがあるべきです。そしてこの「パフォーマンス」は数値的な成果だけを指すものではなく、尊敬に値するリーダーであるかどうか、チーム・メンバーの心を掴み、頑張ろうという気持ちにさせる資質を持っているかどうかも含みます。企業文化にフィットしない、そうする気もない人材があぶり出す仕組みを築かなくてはなりません。そして、不適切な人材には、今後どうすべきか、自らの身の振り方に関する判断を促すことです。

そして第四に、コア・バリューが事業の中で「仕組み化」されている必要があります。壁の上の標語としてではなく、どんな人材を雇うか、どのように自社の価値提案を社内外に伝えていくか、どんな行動に報いるか、日々、どのように考えて意思決定するか、その基盤となるものとしてです。よく言われるように、会社経営において唯一不変の原則は「状況は絶えず変化する」ということです。しかし、会社のコア・バリューとして不変なものを定め、それを日々一貫して活用していけば、どんな荒波も乗り越えることができます。

企業文化の「実践」は容易ではありません。突き詰めていえば、それは「選ぶ」ということです。経営者として、価値観主導の経営を選ぶこと、他者への共感をもって日々を生き、社員の幸せと利益との両立は可能だと信じ、実践し、それを伝え続けることです。そうすることによって、私たちは、「ビジネス」の在り方を人間にとって良い方向へと変えていくことができるはずです。

(注:この記事は、米スモール・ジャイアンツ・コミュニティのインタビュー記事を、ダイナ・サーチの見解や解釈を踏まえ、加筆・編集したものです。)

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