本記事は、コア・バリュー経営協会会員向け記事として作成されたものです(2018年11月27日)。

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「最高の人材」を採用するには

「最高の人材」を獲得することは年々難しくなっています。これは、アメリカのとある不動産会社が「最高の人材」を採用するためにどのようなアプローチをとっているかという事例です。

この不動産会社では、地域社会に根差し、不動産の仕事に興味をもつ人を見つけて、社内の教育プログラムを通して不動産エージェントとして育成して、採用するというアプローチをとっています。このようにして時間をかけて人材を育成するので、会社の文化にあった人材を見分け、雇い入れることができるのです。そしてそれは、地域社会への貢献にもなっています。

この不動産会社のコア・パーパスは、「人の暮らしを向上し、力強い生き方を支援する」ことですが、これが会社説明会から入社後のメンター・プログラムにまですべてに反映されています。創業からわずか8年間で、この会社は3箇所にオフィスを設け、55人のエージェントを雇用し、多くの賞を受賞する「ピープル・ファースト」の企業文化を築くことを実現しました。

さて、この会社では、いったいどんなリクルート/採用活動が行われているのでしょうか。

コミュニティ・キャリア・ナイト―地域に根差した会社説明会
「コミュニティ・キャリア・ナイト」は、不動産エージェントの仕事に興味のある人が来て学ぶことのできる無料イベントです。年間に5回から6回の頻度で開催され、会社にとってのリクルート活動であるばかりではなく、地域社会に教育・雇用機会を提供するイベントでもあります。不動産というのは、社会人として経験を積んだ人が、転職を考えるうえで魅力的な「セカンド・キャリア」の機会を提供するものです。会社にとっては、「コミュニティ・キャリア・ナイト」は、地元住民の中から、不動産エージェントにふさわしい性質をもつ人と出会う絶好の機会になっています。全体で二時間のイベントですが、まず軽食が提供され、そして現役の不動産エージェントが自らの経験を語るパネル・セッションがあり、トップ・エージェントが参加者の質問に答える質疑応答の時間が設けられています。また最後に、関心のある人が不動産エージェントを育成する教育プログラムに登録する機会を提供しています。

イベントが開催されるたびに、40人から60人の参加者があります。過去の参加者の口コミや、ネットによるデジタル・マーケティングの賜物です。この不動産会社では、顧客データベースに1万2,000人を超えるクライアント・データを保有していますが、それらの顧客に招待状を送ると、過去にこの不動産会社を通して良い体験をした人が家族や友人にメールを転送してくれるのです。また、この会社で働く現役のエージェントたちも家族や友人や以前に働いていた会社の同僚などを招待します。そして、もし自分が招待した人が採用された場合には500ドルのボーナスをもらうことができます。ソーシャル・メディアの有料広告を利用して、ターゲット層である主要デモグラフィック層へのマーケティング活動も行っています。また、イベント終了後には、参加してくれた人たちにアンケートを送り、フィードバックを求めて、イベントについて知ったきっかけを訊ねるとともに、感想やコメントを求めて改善につなげるようにしています。

手広く広報はするものの、イベントに来た人を片っ端から勧誘するのではなく、むしろ不動産ビジネスの現実を伝えて、ただなんとなく関心のある人を間引きする、じっくり考えさせたうえでほんとうにエージェントを目指したい人を見分けてコミットさせることを狙いにしています。不動産エージェントの資格を取ること自体はそれほど難しいことではありませんから、不動産エージェントの仕事もそれほど大変ではないだろうと甘えた考えでこの業界に入ってくる人が多いからです。パネル・セッションでは、市場のデータなども提供したうえで、プロの不動産エージェントとして生計を立てていくのがどれほど大変なことか、その現実についても、体験談を通して知ってもらいます。それでも興味があるという人たちだけに、次のステップとして、エージェント養成プログラムに登録することを勧めているのです。エージェント養成プログラムは二カ月に一度、二週間にわたって提供され、毎回6人から10人の受講があります。コース全体を通じて、受講者の様子を細かに観察することで、会社の企業文化に「フィット」する人を見分けるというプロセスをとっています。

これは一般の不動産会社の採用とはまったく正反対のアプローチです。一般的な不動産会社は、経験と実績を積んだ、トレーニングの必要のない即戦力のあるエージェントを他社から引き抜いてくることに労力を費やします。それとは反対に、この不動産会社では、不動産エージェントにふさわしい資質をもった人で、会社のコア・バリューを共有できる人を見つけて、その人に知識やスキルを教えて不動産エージェントとして育て上げることに労力を注いでいます。例えば、この会社のトップ・エージェントは、セラピストとして20年間の経験を積んだ後に、転職をしてこの会社に就職し、不動産エージェントになった人です。

最も優秀なエージェントとは、社会経験を積んだ後に、自らの人生の目的によりよく合致した仕事や、より自分を満たしてくれる仕事を求めて不動産の世界に入ってくる人です。性質としてはサービス重視であること、辛抱強いこと、そして人が好きであることなどが求められます。「コミュニティ・ナイト」を開催することによって、「不動産エージェント」という仕事と、会社の文化やコア・バリューに最もよく見合った人材と出会うことに成功しています。

コア・バリュー主導の採用

<この不動産会社のコア・バリュー>
一貫性(インテグリティ)、アカウンタビリティ、卓越(エクセレンス)、家族、インパクト、楽しさ、バランス、成長

不動産エージェント養成プログラムの開始後ただちに、受講生の中から、会社の文化やコア・バリューに合った人材を探すことに労力が注がれます。二週間の期間中に、誰が有望な候補者なのかを見極めていきます。ライセンス取得後に、有望と思われる人材を面接によびます。そこから、採用のプロセスが始まります。

創業から八年間をかけて組み立てられてきた採用のプロセスは慎重かつ厳格なものです。当初はオーナー自らが面接にあたるだけのシンプルなものでしたが、4年ほど前に、コア・パーパスとコア・バリューを主軸とするものとして建て直しました。今日では、コア・バリューに基づき、採用し、解雇することを徹底し、コア・バリューが息づく文化を築く上での極めて重要な仕組みのひとつになっています。コア・バリューに基づき日々の意思決定がなされ、また、クライアントや同僚に接するうえでもコア・バリューが基盤となるので、この会社で働くエージェントたちが皆、会社のコア・バリューを共有し、それに賛同していることが絶対的な前提条件になっています。

性格テストを受けた後、面接は二回にわたって行われます。一回目はオーナーとの面接、そして二回目は、最後のステップとして、週に一度、この会社で働く全エージェントが一堂に会するチーム・ミーティングに出席してもらいます。最初の面接では、各候補者に各自の「パーソナル・コア・バリュー」について聞き、自分のコア・バリューに基づいて行動した時の事例を話してもらいます。また、面接中に、実際にセールス・コールをしてもらいます。「ノー」と言われてもくじけないことが不動産エージェントとして成功する必須条件でもありますから、その資質の有無を面接の場で判断します。

また、面接の中で、面接官を相手にロールプレイをしてもらいます。例えば、コミッション率を減らされる、など現実に起こり得るシチュエーションをあげてそれに対応してもらいます。仕事上、どういう成果を上げるかということはもちろん重要なことですが、それよりも重要なことは、このような予期せぬ状況に対して人がどんな反応をするかです。仕事において「何をするか」について人に教えることはできても、その基盤がそもそもない人に価値観を共有するように仕向けるのは難しい、あるいは不可能なことだからです。

採用プロセスが確立されたら、会社全体の結束が増し、以前よりさらにポジティブで活気あるチームになりました。コア・バリューに基づき採用し、解雇することにコミットしたことにより、会社の足を引っ張る、後ろ向きな人を排除することができ、その後の離職率も著しく低下しました。この会社のオーナーが目指しているのは、お金ではなく、文化に魅了されて人が集まってくる会社をつくることです。その結果、この会社に仕事を求めてやってくる人が重きを置いているのは、「一貫性に富んだ誠実な仕事をすること」「世の中に良い影響をもたらすこと」、そして「共に楽しく働くこと」という会社のコア・バリューを反映したものになっています。

90日間のオンボーディング
スキル・セットよりも文化適性を重視して人を採用することは、それに続くトレーニング(研修)プログラムがない限りその成果を発揮しません。この会社では、90日間のオンボーディング・プログラムを通じて、新入社員に一人前のエージェントになるためのトレーニングとサポートを提供しています。会社の中での役割を全うするために必要なアカウンタビリティとメンタリングを提供するものになっています。

1)三週間にわたるオンボーディングのクラス
かつては、新入社員を一人ひとり別々にトレーニングしていましたが、それは非効率的かつ非効果的であることを経験から学びました。結果として、現在では、毎月の第二月曜日に、新入社員が何人か一緒にオンボーディングのトレーニングを始めるようなスケジュールになっています。何人かの新入社員が一緒に、三週間にわたり、オンボーディングのクラスを社内トレーナーから受講します。グループで取り組むことにより、新入社員の間に仲間意識が生まれ、トレーニング中に取り組む活動においてもお互いにサポートし合うようになります。例えば、オープン・ハウスの広報チラシを一緒に作成したり、リスティング・システムの使い方を一緒に学んだりします。このようにして、一緒に様々なことを乗り越えて、三週間の終わりに共に「卒業」し、「卒業証書」を受け取りお互いを祝福することにより、絆が生まれます。

2)90日間のオンボーディング・プログラム
三週間の研修が終わると、次に、90日間のオンボーディング・プログラムにフォーカスをシフトします。この会社では、最初の90日間が「見習い期間」とされていて、この期間中に、新入社員は会社の期待を満たすことができるかを立証してみせなくてはなりません。この90日間に達成しなくてはならないことは明確に文書として新入社員に提示します。週ごとに果たさなくてはならないタスクや責任項目がチェックリストになっているので、各自が何をすべきかは明確です。課題図書からマスターすべきシステムまで、何をいつまでに達成しなくてはならないかがレイアウトされていて、新入社員が迷いなくそれらに取り組めるようになっています。

3)メンタリング・プログラム
最初の6か月間、各新入社員に一人ずつ「メンター」が就きます。採用面接時に行った性格テストをもとに、各新入社員の性質にマッチしたメンターが割り当てられます。90日間のオンボーディングの「チェックリスト」に含まれている項目をクリアしていくにあたり、質問に答えたり、必要なサポートを提供するのがメンターの役目です。毎週一度、メンターと面談を行い、オンボーディング・チェックリストの進捗状況や、週間目標の振り返りや、仕事上の活動計画の見直しをします。
コア・バリュー経営を実践している会社はいずれも、「人」の重要性を理解し、「人」の育成に並々ならぬ時間とエネルギーを注いでいます。この不動産会社も例外ではなく、コア・バリューに基づく採用や、そのスクリーニングを経て入社してきた人の教育にどれだけ力を注いでいるか、その良い例であるといえるでしょう。

*注:本記事は、米スモール・ジャイアンツ・コミュニティによるインタビュー記事に基づき、ダイナ・サーチが独自の視点や見解を加えて作成したものです

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