先の見えない時代である今日、既存の常識では不可能と思われることや、未知、不確実なことに挑戦し続ける企業スタミナが問われるようになっています。そんな中で、「未来に羽ばたくことのできる企業」の資質とは何か、を私なりに考えてみました。

【第一の資質】自社のコア・パーパス(社会的存在意義)やコア・バリュー(中核となる価値観)を明確に定義している

事業目標や売上目標の他に、「会社が存在することで、社会にそんな価値を提供したいのかというコア・パーパス」を明確に定め、組織の中の人をまとめあげる求心力としています。また、会社の中の大多数が共有すべき「中核的価値観であるコア・バリュー」を定め、日々の意思決定や行動の基準としています。

リーダーたちが自社のコア・パーパスやコア・バリューを明確に定め、自らそれらを体現することによって、組織の裾野にまで浸透させる努力をしていること、そして、会社の大多数がそれらを体得し、日々の実践に活かしていることが、「未来に羽ばたける企業」の条件です。

【第二の資質】戦略的な企業文化の育成に注力している
「企業文化が大事」というのは昔から言われてきました。しかし、かつての「企業文化論」というのは、「既にそこにある文化」の観察や研究に焦点を置いており、例えば、「日本企業に共通した企業文化」として信頼、気配り、親密さなどの要素を挙げるなど、「企業文化」を「自然発生するもの」として見ていたように思います。

かたや、ここで論じる「戦略的な企業文化」というのは、フラット(平等)、オープン(開放的)、オーセンティック(ありのまま)な人間関係が求められる「ソーシャルの時代」に企業がより良く対応するために意図的に定義し、育成し、継続的に維持する企業文化を指します。

「戦略的な企業文化」は、「なりゆきでできる」のではなく、「社内の全員が参加し、意図的につくる」ものですから、自社の「ありたい姿」に合致したコア・パーパスやコア・バリューを定めて、それを土台に様々な仕組みをつくり、運営していきます。

【第三の資質】個の人間性を重んじる
未来企業は、会社の中の一人ひとりが「個」の持つ力を発揮することを推奨します。それを可能にする環境や仕組みを徹底的につくりあげているのです。

過去には「公人・私人」という言葉があるように、「会社にいる私とプライベートの私は別モノ」という考え方が当然視されてきました。会社に来た途端に、まるで制服に着替えるように「自分」というものを脱ぎ捨てて会社の仮面をかぶる、ということが当たり前と思われていたのです。

マニュアルに沿って単純作業を繰り返すような職場ならば、それも通用するかもしれません。しかし、今の世の中、大多数の職場、職種が創造性や機転を要求します。未来企業はこれをよく理解しています。

個々の創造性、感性、柔軟性・・・。会社の中の「個」が人間に内在する力を最大限に発揮できてこそ、より強い組織になることができると未来企業は心得ているのです。

【第四の資質】学ぶ組織である
未来企業は学ぶ組織です。混沌と激変の時代においては、学び続けることができない会社は生き残れない。ですから、未来企業は学ぶことを奨励し、教育の仕組みやプログラムを社内に設けています。

たとえば、未来企業の中には、社員が自由に持ちだすことのできる本棚や課題図書を設けている企業が少なくありません。経営者やリーダーが「社内で共有したい」と思うテーマやトピックの本を選び社員に読むように呼び掛けたり、外部からスピーカーを招いて講演会を開いたりなど、「学ぶ活動」を活発に行っています。

そしてそれは、必ずしも会社の業務に関係することや、スキル・ベースのことだけではありません。企業内大学を設けて、その中で、ダンスやヨガ、瞑想など趣味や生涯教育の域に入るようなことまで社員が学べるようにしている会社もあります。

それは、そういった仕組みやプログラムの焦点が、「ただ知識を学ぶ」ということではなく、むしろ、「学ぶ体質を育む」ということに置かれているからです。何でも学ぶ、常に学べる体質をつくっておけば、どんな変化にもしなやかに対応することができます。

【第五の資質】強烈な個性をもち、ファナティカルである
「ファナティカル」を英和辞典でひくと、「狂信的」や「熱狂的」という訳語が出てきます。さらに、『広辞苑』では、「狂信」は「理性を失うほどに信じこむこと」、「熱狂」は「狂うばかりに夢中になること」とあります。

では、「ファナティカルな会社」とはどういう会社でしょう。私は、「自身が定めたコア・パーパス(存在意義)やコア・バリュー(中核的な価値観)に絶対的な信念をもち、それらに則って徹底的に行動する会社」だと思っています。価格や商品や紋切り型のサービスでは競争できなくなった今日、企業が顧客の心の中に特別な居場所をつくり、一代、二代と末永く生き残っていくためには、「狂信」と称されるレベルの「徹底」が必要だと思います。

まず、強烈な信条や価値観を前面に押し出したうえで、それを熱狂的に支持し、徹底的に推進する人たち(従業員)を集めて、その人たちが幸せになれる小宇宙をつくろうとしている。「従業員の幸せ」を最優先として躊躇することなく追求し、従業員、顧客、そして社会に愛される会社をつくっている、それが未来企業なのです。

石塚しのぶ


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