1990年代の半ば、「アマゾン」を筆頭として、ネットでモノを売る会社が次々と台頭し、またモノの売買に限らずあらゆるタイプの「ネット・ビジネス」が出現し、市場が大きく変わる予兆が感じられました。ネットがもたらした情報の民主化や価格透明性の向上は、流通の川上から川下へのパワー・シフトを引き起こし、「顧客主導型市場の到来」が囁かれるようになってきました。

以来、テクノロジーの進歩やそれに伴う生活様式の変化、新しい業態の出現は絶え間なく続き、変化のスピードは加速するばかりです。情報通信の自由やあらゆる選択肢(商品、サービス、娯楽等々)の多様化をもたらしたソーシャル・メディア・プラットフォームの影響力は計り知れないものとなり、果たしてこれらが我々にとって良いものなのか、あるいは悪いものなのか、白黒つけるのが日増しに困難になっています。

AI、バーチャル通貨、ドローン、ベーシック・インカムなど・・・。新しいコンセプトやテクノロジーが投じられ、その可能性が盛んに論じられる傍らで、一般の生活者にとっては不安が増すばかりの世の中になっています。数年後に、我々の暮らしは、仕事はどうなっているのか、未知数が多すぎて、予想がつかないからです。「一寸先は闇」の時代になっています。

私は十年ほど前から、市場の不安が高まる中で、「未来の企業」はどうあるべきか、企業がただ「生き残る」ばかりではなく、顧客や従業員など「ステークホルダー」すべてに愛されて繁栄するためにはどんな会社になるべきか、ということについてあらゆる角度から考察してきました。そのひとつの答えになるのが、私が開発し、提唱している「コア・バリュー経営」という組織変革/戦略的企業文化構築のためのメソドロジー(方法論)なのですが、今日は、私が考える「未来に羽ばたく企業の資質」とはいったいどういうものかということについてかいつまんでお話したいと思っています。

前提条件:未来に羽ばたく企業は「共に夢を見ることのできる」企業である。

第一に、働く人と共に夢を見る企業であることです。未来企業は売上や利益を超える崇高な目標(「コア・パーパス」)を掲げ、それに共感してくれる人を集めて、その人たちの協力を得ながら目標を達成していきます。

第二に、顧客と共に夢を見る企業であることです。「こんな社会に生きたい」という顧客の願いに共感し、その実現に向けて事業を通じてひたすら価値創造します。

第三に、社会と共に夢を見る企業であることです。「こんな社会に生きたい」という未来像を描き、そのビジョンに働く人や顧客を巻き込んで、熱烈な支持を得るばかりでなく、顧客や働く人の力を集めて新しい世界を共に創っていきます。

共通の目的(コア・パーパス)と価値観(コア・バリュー)のもとに旗を立て、そこに働く人や顧客を集め、人々の共感を原動力として、「モノやサービスの販売」というビジネスの領域を超えて、事業を通して社会を変える会社が頭角を表してきています。

もはや、企業が外向けにもっているイメージやプレステージよりも、その企業の中身、つまり、どんな目的をもち、何を大事にしているのか、どんな世界を創りたいと望んでいるのか、それが重要視され、いわゆる「ブランド」になる時代が来たのです。

新しい時代に「オープンかつフラットな組織」へのしなやかな変革を遂げつつ、集団としての結束やブランドの一貫性を維持している企業を見ると、皆共通して、組織をまとめる強力なコア・パーパスとコア・バリューを明確に持っていることがわかります。そして、それらを基盤とする「企業文化」が経営の柱になっているのです。
(後編に続く)


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