ブライダル、飲食、写真スタジオ、そして最近ではホテル事業にも参入し、サービス業全般を手広く手掛けているディライト株式会社の出口哲也社長に、ディライトでのコア・バリュー経営の実践と今後の展望についてお話を伺いました。

ディライト出口社長

ディライト株式会社は1950年に創業され、創業当時は繊維業、出口さんの御父上の代ではアパレル業を営み、そして現在に至るという華々しい変遷を遂げてきた会社です。

三代目社長である出口さんは、幼少の頃から「家の食卓が会議場」のような環境で育ったそうです。子供心に「いつか家業を継がねばならない」というおぼろげな自覚は持っていたそうですが、転機が訪れたのは大学三年生の時、御父上が大きな手術をすることになり、「成功率は40%。もし万が一の時は会社を頼む」と託されたことが、「家業を継ぐ」ことが現実として迫ってきた瞬間だったといいます。幸い、御父上は一命を取り留められ、大学卒業後に三年間商社で経験を積み、ディライトに入社した出口さんが社長業を引き継いだのは36歳の頃でした。

元来「自分ひとりで何でもやってしまう」一匹狼体質だという出口さんですが、向上心旺盛な経営者たちが集い、会社を良くすることについて本音で熱く語りあえたら何か刺激的なことが起こるのではないかと思い、「コア・バリュー経営協会」への入会を決意したといいます。また、フェイスブックやグーグルなど海外の企業を訪問し、一社員が経営者顔負けの情熱で自分の会社について語るのを目の当たりにし、その自信や、誇りや、輝きの根底にあるのは「カルチャー」であると直感したことも、コア・バリュー経営導入を決意する後押しになったそうです。

コア・バリュー経営に正式に着手して三年程度。成果として見え始めたのは「主体的な組織ができつつある」ことだといいます。

特に幹部層では、かつては「会社は会社。自分は自分」と分けて考える傾向にあったのが、自分たちが共感して、自分たちで決めたコア・バリューに則って会社を経営する、ということを幹部自らが実感するようになるにつれ、数値に終始した「うわべだけの議論」ではなく、たとえばコア・バリューにも掲げている「革新性」を会社として実現するためにはどうしたらいいか、などという本質的な議論が交わされるようになってきているということです。

自分にも社員にも「自主性」を重んじる出口さんが、コア・バリューを浸透させるうえでぶち当たったのが「距離感のバランス」という難題だったといいます。幹部やリーダー層の「自主性」を重んじるあまり、自分が手を放し過ぎてしまったのではないか、とある時点で気がついたそうです。コア・バリューを会社の皆と共有していくプロセスにおいては、オリジネーターである社長自身のパッションや、社長自身がどこまで本気で関わっていけるかが重要なのではないか。そう考えた出口さんは、今では「なぜコア・バリューが会社にとって大事なのか」を教える研修に社長自ら登壇し、エヴァンジェリストとしてスタッフに「伝える」努力をしているのだということです。

そして、一番大事にしていることは、「コア・バリューを社長自ら実践すること」。外部の研修に社員と一緒に参加する時も、「主体性」を発揮して、社長が一番積極的に発言や質問をするよう努めます。また、いいことが起きた時、逆に悪いことが起きた時にも常にコア・バリューに基づいて判断する。それを徹底する。「お前がやれ」と社員に押しつけるのではなく、社長自身が自分に厳しく実践することでお手本を見せている、ということでした。

ディライトは日本における「働きがいのある会社」ランキングに五年連続でランクインしていることでも知られていますが、2021年には中規模部門(従業員100-999人)で一位になることを目指しているそうです。出口さんいわく、順位云々が大事だということではなく、「働きがいのある会社」のような外部指標を重視する根本の理由は、「経営者というのは会社で圧倒的な権力をもっている存在なので、自分たちが正しいのか正しくないのかということをいろいろな基軸で判断されるべき」と思っているということ。自分自身で評価することに加えて、部下からの評価、世の中からの評価など・・・評価基準をたくさん持って、客観的判断をするためのひとつの指標としているとのことでした。

ディライト、高柳さん

同社のブライダル事業部の副部長を務める高柳さんにもお話を聞きましたが、「迷ってしまうような深刻な局面で意思決定をする際に、社長が『コア・バリューに則って判断しました』というのを聞くとやっぱりすごいと思う」ということで、社長自らの実践、というのを大事にされているのだなということを、インタビュー全体を一貫してうかがい知ることができました。

ディライト、出口社長(正面)と石塚(後)

日・米を問わず、コア・バリュー経営を実践している企業の経営トップをインタビューする際にいつも思いますが、コア・バリュー経営成功のカギは、やはり「トップ自らの実践」なのですね。

取材・記事/ダイナ・サーチ、インク 石塚しのぶ