コロナの時代に課題として浮上していることがいくつかある。たとえば、人と人が物理的な距離を保たなければいけない「隔離の時代」に、いかにつながりを保つのか。そして企業はいかにそれを支援できるかだ。

最近、世界最大の小売店舗業者ウォルマートは、アメリカで、ローカルに根差したソーシャル・ネットワーキング・サービスを展開する「ネクストドア(NextDoor:評価額20億ドル)」と提携して、買い物に行けない高齢者やその他感染リスクが高い人たちのニーズを満たす地域の助け合いプログラム(Neighbors Helping Neighbors)を立ち上げた。ネクストドアのサイトやアプリを通して、買い物支援が必要な人と、支援を提供できる人をマッチングするというものだ。

このプログラムを利用するためには、まず、ネクストドアへのメンバーでなくてはならない。メンバー登録を済ませて、ネクストドアの「グループ」機能を利用し、最寄のウォルマート店舗に紐づけされたグループを探す。そして、そのグループを通じて、「買い物が必要な人」と、「買い物支援を提供できる人」がお互いを探すことができるというわけだ。いつ買い物に行って、何を買って、買ったものをどこでどうやって引き渡すか、どうやって支払うか・・・といった詳細はメッセージ・ボードで通信したり、ダイレクト・メッセージをやり取りしたりして詰めることができる。

ウォルマートにしてみれば、自らの店舗での買い物を促進することで売上獲得につながる・・・ということもあるだろうが、その他に、より長期的で、より意義深いメリットを念頭に置いているようにも思える。コロナは私たちの日常の平穏を脅かす緊急事態だ。企業が今、「どのように振る舞うか」が平時にも増して問われている。生活者は企業の動きを注意深く見ている。この大変な時期に、私たち生活者の、ひいては世の中の「役に立つようなことをしてくれたか」、私たちを「安心させてくれたか」、私たちの「心を揺さぶるようなことをしてくれたかどうか」・・・。それにより、企業のブランド価値が大きく影響される。この非常時に、「どんな気持ちにさせてくれたか」を生活者は覚えているものだ。今後、「どこでお金を遣うか」も、その記憶に左右されていくことだろう。

ロックダウン(外出禁止令)やソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)の弊害で、人と人との触れ合いが少なくなり、人間関係の希薄化が懸念されている中で、ネクストドアのような「ローカルなつながり」に焦点をあてたソーシャル・ネットワーキング・サービスの価値が高く評価されているのも非常に興味深い。物理的なつながりが絶たれる中で、テクノロジーの力でいかに「intimacy(親密さ)」を維持していくのかが、企業にとって今後の重要な課題になっていくだろう。

記事/ダイナ・サーチ、インク 石塚しのぶ