ウーバーのスキャンダルが開けたパンドラの箱
ライドシェア・サービス大手のウーバーといえば、最高時の評価額が7兆円に及んだ史上最大規模のスタートアップ企業でしたが、2017年に元社員である女性エンジニアの告発ブログ(ウーバー社内に横行する女性蔑視やハラスメントに関する)を受け、重鎮である経営・管理系の人材が大量に流出するなどの危機に直面しました。結局は、共同創設者兼初代CEOであったトラヴィス・カラニック氏が責任を問われ辞任し、上場を前に、新しいCEOを迎えての組織の立て直しを強いられました。

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このスキャンダルを皮切りに、企業文化が企業価値にもたらす影響や、リスク管理としての企業文化マネジメント、そしてガバナンスとの関係について活発な議論が交わされるようになりました。近年では、顧客サービスやイノベーションの面で頭角を現す会社が出てくるとその根底には「良い企業文化」が、また、反対に、事業運営や業績の面で問題のある会社があるとその根源には「悪い企業文化」があるというように、つまり、良くも悪くも「企業文化の影響」が取りざたされるようになってきています。

より記憶に新しい例をあげれば、これもモンスター級のスタートアップとして注目を浴びたWeWorkのスキャンダルがあります。WeWorkの場合には、鳴り物入りで上場申請をしたものの、その申請書類によって暴かれた赤字体質と、創設者兼CEOのアダム・ニューマンによる経営の私物化が問題視されました。同氏のカリスマ性に依存する独裁的な文化とガバナンス体制の欠如に多くの投資家やアナリストが警笛を鳴らした結果、5兆円近くもあった評価額は瞬く間に5,000億円へと転げ落ち、これも、CEOの辞任による体制の建て直し、そして上場の無期延期という結果を引き起こしています。

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企業の存在目的は長期的利益創出のエンジンである
こういった一連の出来事を受けて、アメリカのビジネス界では、「リスク管理としての企業文化マネジメント」が論じられるようになっています。企業の取締役が加盟する協会では、『企業の資産である企業文化管理に取締役会がどう関与していくべきか』をテーマに白書を出版しました。また、世界最大の資産運用会社ブラックロック社のCEO、ラリー・フィンク氏は、「企業の存在目的(大義名分)は長期的利益創出のエンジンである」とし、同社が投資対象とする企業のCEOに向けて、存在目的の明確な定義を促す公開書簡を発表しています。私が提唱するコア・バリュー経営でも、コア・パーパス(企業の社会的存在意義)を、企業の長期の繁栄には欠かすことのできない主要素として定義づけています。

さらに、昨年2019年には、アメリカを代表する大企業のCEOで構成される協会ビジネス・ラウンドテーブルが、『企業の存在目的は株主利益の創出のみならず、顧客、従業員、取引先、地域社会、自然環境といったすべてのステークホルダーに対する利益創出である』とする声明を発表しました。ビジネス・ラウンドテーブルでは、1978年以来、『企業にとって唯一の存在目的は株主利益の創出である』という保守的な立場をとってきたため、昨年の声明の刷新はビジネス界全般に大きな波紋をもたらしています。この「ステークホルダー・アプローチ」も、「コンシャス・キャピタリズム」や「スモール・ジャイアンツ」、そして「コア・バリュー経営」という一連の流れに共通するものだと思います。

コア・バリュー経営は「意図する企業文化」構築のシステマティックなアプローチ
とにもかくにも、二言目には「企業文化」がビジネスの論議にのぼるようになったということですが、何もかもを「企業文化」の副産物として片づけることによって、問題点の定義や分析を不明確でいいかげんなものにしてしまうのではないかと危惧する声もあります。私としては、企業文化が「良い」「悪い」という単純な議論に終始するのではなく、むしろ、企業文化により真剣に取り組むこと、つまり、「どんな企業文化を創りたいのか」を明確に定義し、経営戦略の一環として「戦略的企業文化の構築」に取り組むことが必要だと考えるのです。そのためには、「コア・バリュー(社内で共有すべき中核となる価値観)」を基盤とし、その日々の実践を通して意図する企業文化を醸成していくシステマティックなアプローチが必要不可欠だと強く思います。

記事/ダイナ・サーチ、インク 石塚しのぶ