JamesLudema,ShinobuIshizuka

コア・バリュー主導のリーダーシップ-1

近年、価値観(コア・バリュー)を基盤としたリーダーシップの在り方が、アメリカのビジネス界で注目を集めるようになってきています。「コア・バリュー主導のリーダーシップ」は、アメリカでは学問として大学の授業に取り上げられるばかりではなく、学校によっては学位を設けているところもあるくらいなのです。

企業を導くためには、財務などの知識を備えているだけではダメで、リーダーとしての人格形成(パーソナル)、リーダーとして人やチームをどう育てるか(インターパーソナル)、健全な組織をどう構築していくか(オーガナイゼーショナル)、世の中の進歩にどう貢献していくか(グローバル)といったホリスティック(総体的)なアプローチが必要だ、という考え方が主流になってきています。

リーダーとしての人格形成(パーソナル)において、出発点となり基盤となるのが、コア・パーパス(中核となる目的/存在意義)とコア・バリュー(中核となる価値観)です。コア・バリュー経営では、企業・組織のコア・パーパスとコア・バリューを定義することが出発点になりますが、今日のリーダーシップにおいては、リーダーたる人が、自らのコア・パーパス(存在意義)やコア・バリューをじっくりと見極め、それにコミットする、つまり、自らのコア・パーパスやコア・バリューに沿った、ぶれのない生き方をする覚悟を固めることが出発点となります。

その背景には、インターネットというテクノロジーの発達・普及により、個人・生活者が力を発揮する土壌ができたことがあります。個人の力が増大した結果、企業という組織がそれに真剣に、「心」でもって対応しなくてはならなくなったのです。それは「顧客」という個人に対してもそうですし、「働く人/社員」という個人に対しても同様です。企業経営がより人間的なアプローチをとらざるを得なくなってきたのです。

企業経営、というと「数値(財務)管理」のような冷たい印象がありますが、企業(組織)を形作る最も重要なユニットは「人」です。ですから、人(リーダー)が人(働く人/社員)にどう接するか、が経営における最重要事項でなくてはなりません。そう考えると、リーダーにとって最も重要な仕事は、「サービス(奉仕)」であるということになります。人の成長/幸せ/自己実現にどう奉仕するか、それはひいては、企業(組織)として、世の中にどう奉仕するか、ということでもあります。

日本では「理念」や「ミッション」という言葉が、「コア・パーパス」と同義で使われたりしますが、厳密には「理念」や「ミッション」は、「コア・パーパス」とは性質の異なるものです。「理念」は事業の根底にある根本的な考え、「ミッション」は使命や任務を指しますが、いずれも広義であり、「コア・パーパス」に必要不可欠な「社会性に富んだ意義」というニュアンスを含みません。極端にいえば、「理念」や「ミッション」は利己的であっても構いませんが、それに対して、「コア・パーパス」には、必然的に「個人や企業という単体を超えた、より大きな社会に対して価値を生み出す」ということが含まれます。

昨今、「権限委譲」ということが盛んに言われていますが、コア・バリュー主導のリーダーシップが目指すのは「エンパワーメント」です。「権限委譲」は「エンパワーメント」の訳語として使われることが多いのですが、これら二つはそれぞれ異なることを意味する言葉です。「権限委譲」は上司が持っている権限や権力を部下に分け与えることを指しますが、「エンパワーメント」とは個人(ここでは部下)が持っている力や才能を発揮できるように、自由意思のもとに考え、行動できる環境をつくることを指します。「社員一人ひとりを、適正な判断に基づき結果を出す力を備えた個人として認識し、尊重し、信頼する」というのが、コア・バリュー主導のリーダーシップにおける、「エンパワーメント」の考え方です。

もうひとつ、今日、経営のキーワードとなっているのが、「社員エンゲージメント」ですが、「社員エンゲージメント」とは、社員が会社の目的や仕事に対して抱く共感や情熱の度合いを指します。「エンゲージメント」が高ければ、社員は強いられることなく、自らの自由意思で会社の期待を超える働きをします。「エンパワーメント」と「エンゲージメント」に共通するキーワードは「自由意思」ですが、これからの時代、個人(社員)が自らの持てる力をフルに発揮して伸び伸びと働けるような環境をつくれない会社に未来はありません。そして、そういった環境をつくるには「制度」だけではダメで、人への献身の心をもった「人=リーダー」が必要なのです。

『ティール組織』がベストセラーとなり、「セルフ・マネジメント」などという言葉が独り歩きしていますが、「セルフ・マネジメント」=「ヒエラルキーをなくす/上司不在」なのではなく、「個人が力を発揮できる環境をつくるリーダーを育てること」なのだと私は思っています。ひとことで言えば「人間尊重」の企業文化をつくることであり、それが「コア・バリュー経営」の目指すところです。