本記事は、コア・バリュー経営協会会員向け記事として作成されたものです(2018年3月29日)。

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あるスモール・ジャイアンツのコア・バリュー・ストーリー(第五回)

コア・バリュー経営協会では、コア・バリュー経営の実践企業において、社員による「コア・バリュー・ストーリー」が共有されることを奨励しています。しかし、「コア・バリュー・ストーリー」と言われてもいったいどんなものかピンとこない、という皆さんのためにアメリカのスモール・ジャイアンツ(ペンシルバニア州フィラデルフィアにあるデザイン会社)の例を用意してみました。今日はその第五回です。

私たちのコア・バリュー:継続的向上

これまでいろいろな人との出会いや出来事を通して、自分という人間について多くのことを学んできた。しかし、今からお話する体験以上に、私に「継続的向上」について教えてくれたものはない。

【練習を通して向上する】
先を読み進む前に、紙に小さな線を書いてもらいたい。次に、まったく同じ長さの線を二本、はじめに書いた線から等間隔に書いてほしい。このようにして、一ページをまるまるこの線で埋めていく。僕がデザイン・スクールの学生だった頃、教授にやらされた課題のひとつだ。

ゴールはシンプルだ。一枚の紙の上に、長さや太さが同じ線を等間隔に引いていく。それだけのように見えるが、私が後に気づいたのは、これが反復的学習と向上のためのエクササイズだったということだった。この単純な線を引くという作業が、その後に取り組むプロジェクトのために私を鍛えてくれたのだ。この単純な作業を完璧にこなさずして、より難易度の高いレタリングのプロジェクトをタックルすることなどできようもないからだった。

一つひとつの線が、私の脳と筋肉に記憶となって刻まれた。新しい線を引く前に、今書いたばかりの線を吟味し、頭の中で修正を加えていく。一つひとつの線が改善の機会だった。言い方を変えれば、直前に成し遂げようとしたことを一つひとつ完成していくようなものだ。次々と線を引きながら、私たちは小さな調整を加えつつ、より良いものをつくりだしていったのだった。

そのうち、「デザインする→吟味する→リデザインする」というプロセスが血と肉となり、無意識のうちにできるようになっていた。

【プライドが進歩の邪魔をする】
それと同時に、それまでの成果にあまりにも固執していては、反復は効果を発揮しない。線を引くだけであれば固執するなどという気も起きないが、何時間もかけて作り上げたデザインとなると、どうしても固執してしまいがちになる。

絶えず向上するためには、デザインに対しても同様な反復の姿勢で臨まなくてはならない。自分の仕事に過剰な誇りを抱いてしまうと、現状に甘んじる気持ちが生まれてしまって、前に進むことができなくなる。一方、常に積み立てるものとして仕事に接すると、それが継続的改善の基盤だと考えることができるようになる。

【プロセスを通して向上する】
デザインスクールを卒業し、製造の会社に勤務した時、自分や自分のチームの仕事について常に内省することを求められた。製造所要時間の短縮とデザイン/エンジニアリング・プロセスの向上を狙いに会社が大がかりな改革を進めている最中だった。

「クリエイティブ」であることを強みとする私としては、新しく導入された枠組みと何もかもを文書化しなければならないという決まりに反発した。「効率化」の名のもとに、「ムダ」を見つけて抹殺する分析のプロセスは、私の創造的プロセスとは相いれないと感じたからだ。しかし、実は、自分の無知ゆえに目が閉ざされていただけだったと後でわかった。

シックス・シグマのプロセスは、社内の全員が既存のプロセスを見直し、改善の方法を提案するためのツールだった。そうする力を皆に与えてくれた。会社の階層のどこに属そうとも、誰でも会社にインパクトを与えられるプラットフォームだった。なにより、私にも自分のデザイン・プロセスを見直すきっかけをくれた。

それから間もなく、私はそれまで無意味な繰り返しや重複のために時間や労力の浪費になっていたタスクに枠組みを設けることができた。そうすることにより、もっとやりがいがあり、価値の高いデザイン上の課題により多くの力を費やすことができるようになった。

【常に高みを目指す】
私たちの会社では、チームの仲間が日々、お互いに学べるような工夫をしている。素晴らしい仕事や、デザイン上の難題をいかにして乗り越えたか、過去のプロジェクトから得た洞察は、チームの壁を越えて会社全体に共有される。そのために「デザイン・リワインド」や「DIGs(ディグズ)」(文末の注釈を参照)のような仕組みやイベントがある。将来的に似たような難題に直面する時には、こうして共有した知識が新しい解決策を考案するうえでの基盤となる。引き継がれた知恵が効率をもたらし、より目新しい問題に力を注ぐことを可能にしている。

私たちがクライアントのビジョンを実現するためにより良い方法を発見していくにつれ、未来に向けて新しい標準を築いていくことになる。カイゼンのアプローチをもってして、既存のやり方を改善することで少しずつ前進し、継続的なプロセス改善を行っている。そうすることにより、社内で働くお互いにとって、そして仕事にとって高い標準を保ち続けているのだ。

【文化を通して向上する】
私たちの会社の「協業の文化」は、私たちの改善サイクルにおいて最も重要な要素だ。企業文化があるからこそ、これまでに築き上げられてきたことを守り、私たち「らしさ」を維持することができる。私たちの原則(コア・バリュー)を厳守し、後退を防ぐ助けになっている。文化とは免疫のようなものだ。強くなればなるほど、壊すことが困難になる。

文化を「特別なもの」にする要素は言葉に言い表し難い。ほんとうに肝心なことは規則やプロセスとしては書き出せないものだ。文化とはその構成員であるすべての人によって体現されなければならない。そして新しい人たちによって引き継がれていかねばならない。

「人がお互いに与える影響は世の中で最も貴重な通貨だ」と俳優のジム・キャリーがスピーチで述べていた。クライアントと共に働くことによって、私たちは日々、誰かに影響を与えることができるとても幸運な環境にある。共に働くとき、共に成長することができる。私たちがお互いの中に、そして私たちが手掛けるプロジェクトの中に注入する私たちの「文化」は、自分自身や、会社のプロセスや、私たちを取り巻く世界を日々より良いものにしていけるように、私たちを突き動かしてくれるかけがえのない財産である。

注釈)
「デザイン・リワインド」:年に二回、リード・デザイナーとリーダーシップ・チーム全員が一堂に会し、過去半年に手掛けた仕事をレビューする。各プロジェクトについて完成品を皆で鑑賞するとともに、制作過程での逸話や、チームとクライアントの交流などについて話し、またプロジェクトから得た学びを共有している。こういった「振り返り」の集まりが、社内のシステムやプロセスやリーダーの在り方を見直し、仕事そのものやチーム内の人間関係やクライアントの関係を継続的に改善、向上することに貢献している。

「DIGs(ディグズ)」:専門分野に関する知識を深めるためのグループで、各部門(プロジェクト・マネジメント、UXデザイン、ヴィジュアル・デザイン、開発)にひとつずつ存在するが、所属部門に関わらず、誰でも好きなグループに参加することができる。各グループのメンバーはオンラインのコミュニケーション・プラットフォーム上でアイデアを交換したり、質問したりするほか、隔月でランチ・ミーティングを開催し、各自が独自で取り組んでいるプロジェクトの発表をしたり、経験から学んだことを共有したり、最新のトレンドやツールを紹介し合ったりしている。

*注:本記事は、米スモール・ジャイアンツ・コミュニティによるインタビュー記事に基づき、ダイナ・サーチが独自の視点や見解を加えて作成したものです

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