事業承継を機にいかに会社を刷新するのか
二代目、三代目、あるいは四代目社長が事業を承継する際に直面する難題。会社の規模や、属している業界・市場の状況や財務の状況など、具体的な課題は会社によって異なるとは思いますが、誰もが抱えるジレンマのひとつに、「先人が築いてきた伝統を大切にしながら、自分なりのビジョンを描いて会社を刷新する」ことがあるのではないでしょうか。

やる気のある社長さんならなおさら、「先代から会社を引き継ぐばかりではなく、自分の代に数倍も偉大な会社にしてやろう」という野心があると思います。しかし、だからといって、今まで積み上げてきたものを無視できるわけではありません。また、会社というのは「人」の集まりです。より具体的にいえば、長年会社に働いて、先代と一緒に会社を築いていた先輩たちがいるわけです。その先輩方には、それぞれの経験があり、誇りがあり、自負があり、「思い」があり、「やり方」があります。いくら「社長」とはいえ、若い社長がそのすべてを無視して自分の意見を通すわけにはいきません。そんなことをすれば、摩擦が起こります。

代替わりに際して生じる多少の摩擦は避けようがないにしても、どのようにしてその摩擦を最小限に留めるか。会社に属する「皆」の想いを大切にしながらも、新しい社長のビジョンのもとに皆の心を束ねて、新しい時代へと向かっていくか。

「コア・バリュー経営」は事業承継をスムーズにするひとつのアプローチ
それを実現するうえでのひとつのアプローチを提示してくれるのが、「コア・バリュー経営」です。

会社が大切にしていきたい「コア・バリュー」を定めるうえで、会社の歴史や成功体験、創業時の想いや伝統の棚卸を行う
コア・バリュー経営の「コア・バリュー」とは、「中核となる価値観」。会社に属する皆が共有することで、皆の心をひとつに束ね、会社の存在意義や目的に沿って日々行動していくための土台をまず築きます。

それを定義するうえでは、社長が独断で「これ」と思うものを皆に押しつけるわけにはいきません。会社の歴史を遡って、創業時のエピソードや、創業者の想い、会社の成功談や失敗談などに潜む教訓や智慧を掘り起こし、その中から「大切にしたいもの」を定義していく必要があります。

会社で長く働いてきた人たちをその探索のプロセスに巻き込むことで、事業承継に伴って起こる変化への抵抗や不安を和らげることができます。会社の経営を刷新していくうえでも、その人たちが自分もその変化の一端を担っていると感じることができれば、前向きな姿勢で変化に取り組み、その後押しをしてくれるというものです。

人の「権力」に惑わされないオープンで民主的な組織づくり
人に依存しない意思決定や判断が組織ぐるみでできる
いくら「社長」だといっても、年長者に意見したり、年長者の意見を軌道修正したりというのは難しいものです。若い社長のほうが会社での職歴がずっと短かったり、業界での経験が浅かったりすると、年長者にしてみれば「自分のほうがよくわかっているのに」ということになり、反発を買いがちです。

そんな時に、意思決定や判断のものさしとして「コア・バリュー」を定めておくと、会社の方向性や方針に照らして正しい、正しくない、あるいはふさわしい、ふさわしくないの判断を、「誰の意見か」ということに基づいて考えるのではなく、公平かつ公正な非属人的なやり方で決めることができます。

会社として大切にしたい「コア・パーパス」や「コア・バリュー」を、会社に属するもの全員の「コンセンサス」として定めておくことで、迷いを感じた時に起点とする「拠り所」ができます。社長も、ただ単に「自分はこう思う」というのではなく、「会社のコア・パーパスやコア・バリューに則って考えるとこうだ」というふうに意見を述べることにより、会社という組織の中での立場の違いなどに惑わされることなく、議論を交わすことができます。

また、これは事業承継をした社長さんに限ったメリットではありません。勤続年数や、経験や、年齢や、役職のあるなし、あるいは職種に関わらず、会社で働く全員に「経営参加」をしてほしいと望む時に、若い人でも、どんな職種に就いている人でも、立場に左右されずに意見を言うことができ、また、周りの人にもその意見を受け容れてもらえます。会社という活性化していくうえで、「コア・バリュー経営」が大いに効果を発揮するのです。

「コア・バリュー経営」が長寿企業大国に貢献する
日本は「長寿企業大国」。創業100年企業が26,000社、200年企業が1,200社、300年企業が600社、400年企業が190社、500年企業がなんと40社もあります。長寿企業は日本の国の宝。中小企業を中心に経営者の高齢化が進み、後継者不足が深刻になる中で、ぜひ、「コア・バリュー経営」の考え方を活用し、会社に新しい息吹を吹き込みつつ、サクセスフルな事業承継を行っていっていただきたいものです。

記事/ダイナ・サーチ、インク 石塚しのぶ