コア・バリュー・リーダーシップ

ますます注目を浴びる「コア・パーパス」
企業がその存在意義を定義する「コア・パーパス」は、近年になってますます注目が高まってきています。コア・パーパスは、働く人の「働きがい」「やる気」や「誇り」につながり、組織の結束力を高めてくれるものです。

「コア・パーパス」が効果を発揮するためには、日々の仕事において、働く人たちがそれを十分よく認識しておく必要がありますが、これは職種や業種によってはなかなか難しいものです。

同じ会社の中でも、営業や顧客サービスなど、顧客に直に触れる仕事をしている人たちにとっては、自分の仕事の中で「コア・パーパス」を認識することは比較的容易かもしれません。しかし、顧客から離れれば離れるほどそれは困難になります。たとえば、経理など「(社)内向き」の仕事をしている人たちにはお客さんの「顔」が見えません。「声」も聞こえません。皆が「コア・パーパス」を認識し、実感しつつ働ける会社をつくるためには、自分の日々の仕事と、会社のコア・パーパスとの間にはどんな関連性があるのか、その実現に自分の働きがどのように貢献しているのか、じっくり考え、自分なりの答えを見つける「きっかけ」や「場」を会社が設けてあげることが必要です。

伝説のホテル・チェーン、ジョワ・ド・ヴィーヴルの事例
そういった「場づくり」の良い例として、アメリカの伝説的なホテル・チェーン、ジョワ・ド・ヴィーヴルの取り組みがあります。ジョワ・ド・ヴィーヴルは、今ではより大きなホテル・チェーンと合併して名前も変わってしまいましたが、かつては、マリオットやヒルトンなどの大手チェーンを退けて全米で顧客満足度ナンバーワンの座に何度も輝いた中堅チェーンでした。「従業員の自己実現」を何よりも大切にした経営は、創設者であり元CEOのチップ・コンリー氏の経営書『ピーク』の中で詳細に論じられ、今でも全世界の経営者のお手本になっています。

ホテルの従業員というと、真っ先に思いつくのはフロント・スタッフやベル・スタッフです。これらの職種は、ホテルの「表の顔」。お客さんの目に着くのはこれらの人たちです。

しかし、いわゆる「裏方」でも、実はホテルの宿泊客のエクスペリエンスを支える大きな役割を担っている職種があります。ハウスキーピング(客室清掃係)のスタッフです。

ジョワ・ド・ヴィーヴルでは、ハウスキーピング・スタッフを対象に泊りがけの合宿を行いました。なぜか? ホテルにおける「顧客体験」の要(かなめ)となるのはハウスキーピング・スタッフだと考えたからです。そしてその合宿の最中に、彼らに次のような問いかけを投げかけました。

あなたの仕事は何ですか?
ジョワ・ド・ヴィーヴルのコア・パーパスは、「夢を大きく育む」こと。このコア・パーパスを踏まえて、自分の日々の仕事は何か、と考え直したらどんな答えが出てくるだろう。

ハウスキーピングの「目に見える」仕事は、「掃除」「備品の補充」「ベッドメイキング」などですが、その根底にある意義は何なのか。それを自分の言葉で表現してもらおうという試みだったのです。

すると、こんな答えが返ってきました。

「私の仕事は『旅先の母親役』です」
「私の仕事は、静穏を提供することです」
「私の仕事は、心の安らぎを守ることです」

そう答えるハウスキーピング・スタッフの顔は新たな使命感と誇りに輝いていたといいます。

「ただ、掃除しているだけ」ではなく、「お客様の心の安らぎを守っているのだ」と考えることによって、仕事への思い入れややりがい、また仕事に注ぐ創造性がまったく変わってきます。「コア・パーパス」がいかに働く人の心を奮い立たせ、仕事に対する誇りを感じさせるかという事例です。

(注:本記事は、『コア・バリュー・リーダーシップ 石塚しのぶ著 PHPエディターズ・グループ』から抜粋、加筆、修正したものです。)