本記事は、コア・バリュー経営協会会員向け記事として作成されたものです(2017年4月25日)。

以下は「不信の文化」を、「信頼の文化」へ転換させるまでの体験を、ある米スモール・ジャイアンツ企業の経営者が自ら回想し記録したものです。

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あるリーダーがいかに信頼の文化を築いたか

生涯を通じて、私は信頼を築くことに労力を注いできた。それは私自身が、信頼がなく孤立した家庭に育ったからだと思う。大人に、そして経営者になってからは、人の猜疑心のしるしに敏感になった。従業員の不信に出会うと、居てもたってもいられない思いがした。信頼を築くこと、これは私にとって人生の使命のようなものだ。2001年に今の会社の社長に就任した時、私の役目は必要な変化を推し進めつつ、会社の文化の良いところを維持することだった。1973年に三人の社会意識に富んだエンジニアにより設立されたこの会社には、すでに素晴らしい基盤が存在した。長年を通じて、これらのリーダーたちは財務の透明性と、社員の参加を促す精神と、顧客サービスへの熱烈なフォーカスを培ってきたのだった。

しかしそのような素晴らしい基盤にも関わらず、社内を通じて信頼を築くのには並々ならぬ努力を要した。社員の不信感の証拠は至るところにあった。長年の経験から、信頼の文化を築くには、まず、リーダー自身が信頼のお手本を示すことだとわかっていた。私たちの会社には変わるチャンスがあった。今から、信頼を築くために我々がとったプロセスをお話しする。

1)不信のしるしを知ること
早期から、社内に信頼を築くことがリーダーとして最も優先順位の高い役割の一つだとわかっていた。それがなければ、会社の他のゴールの達成は困難だと気づいていたからだ。だから、まず、日々の会社での生活の中に見られる「不信感のしるし」を定義することから始めた。複数の組織での経験から、「よく見られる不信感のしるし」を次のように定義できる。

•偏狭な考え方とそれに基づく行動
•常に衝突を避ける姿勢
•不健康なチーム・カルチャーの促進
•優先順位の不一致
•協働が困難、あるいは協働関係が存在しない
•変化を嫌う姿勢
•現状維持を望む姿勢

2)チームの賛同を得る
究極的には、会社に信頼の文化を築けるかどうかはリーダー自身の行動次第だ。もし、お互いを信頼できる会社をつくりたいのなら、リーダーがまずお手本を示すことだ。まず、自分の周りの人や、日々の活動の中で遭遇する人たちを信頼することから始めよう。人々は必ずそれに気づくはずだ。そして、リーダーのお手本に倣おうとするはずだ。

信頼の基盤が築けたところで、皆を集めて私の気づきを共有した。同僚への信頼を欠くことが、日々、どんな損失につながっているのか、会社の皆が感じていて、それでいて見てみぬふりをしていることについて話した。そして、解決策があること。容易ではないけれども、実行すれば職場環境の大きな改善につながることを話した。

皆は関心を持ってくれた。

もとより、素晴らしい社員たちが集まっていた。大多数が変化を恐れず、良い方向に向けて舵を切ることを望んでいた。その会合の席で、私たちは不信ゆえの損失を減らしていくこと、そして、より健全な文化を築くことにより得られるチャンスをものにしていくことを誓った。

【不信がもたらす損失】
 • ストレス
 • 時間の浪費
 • 生産性の低下
 • 顧客サービスの劣化
 • 社内の人間関係の崩壊
 • 意思決定の誤り
 • 顧客の損失
 • 欠勤および病気にまつわる損失
 • 不必要な離職

【健全な文化を築くことで得られるチャンス】
 • リスクに強い体質をつくる
 • 会社としての結束とプライドを育てる
 • 優先順位の共通理解
 • 変化に一丸となって対応できる
 • 個々人の才能とやる気をより効果的に活用できる
 • 評判の向上
 • 問題解決に協力体制で臨める
 • 人材を確保しやすくなる

3)実践あるのみ
会合の後、会社の大多数が「不信の文化」の存在を認め、それを改善すべく協力し合うことに同意した。皆の同意が得られたことを土台に、私は、社員全員に二日間にわたるコミュニケーションのワークショップを教えることを提案した。一回につき24人くらいのクラスを編成し、少しずつ同じ考え方を社内に浸透させていった。

このワークショップを完了するまでおよそ二年がかかった。必要に応じてフォローアップのクラスや一対一のコーチングのセッションなども設けた。また、状況が改善される前にさらに悪くなることもあった。それまで隠ぺいされてきた許し難い振る舞いや人間関係の苛立ちが表層化され、ついにそれに向き合う機会ができたのだから、当然のことだ。それまでのダメージが大きすぎて、結局は会社を辞めることになった人も二人いた。オープンかつ正直、そして建設的な信頼関係を築くことに会社が真剣なのだとわかって、それについていけないと悟ったのだ。人を失ったのは残念なことではあったが、それが社内での信頼の構築に拍車をかけたともいえる。

会社ぐるみの努力が四年間ほど続いた。その結果、目覚ましい改善が得られた。社内の人間関係の大半が自由で、オープンであり、相互的な信頼に支えられていた。社員間のストレスもあるにはあったが、それは特定の事柄に関するものであり、一時的なものだった。「厄介な問題」を個人的にとりすぎずに冷静に処理する姿勢が身についていた。もし衝突があったとしてもそこから素早く前進することができた。より容易に、より良い意思決定ができ、ましてやリスクを軽減することができた。その変化は顧客にも感じられるようで、そのようなフィードバックをもらうこともしょっちゅうだった。会社の業績も著しく向上した。そしてたまに信頼を損なう振る舞いをする人がいると、組織の中の注意を集めるため、それが自制とより思慮深い行動を促すようにもなった。

まったく衝突のない会社になったかというともちろんそうではない。しかしお互いへの信頼から、よりオープンに、また協力して話し合えるようになった。それは、ストレスを伴う状況においても、敵対心ではなく仲間意識でお互いに向き合うことを可能にしている。

4)日々、信頼の文化を維持すること
企業文化に熱心なリーダーなら皆認識していることだと思うが、企業文化の育成には「終わり」はない。信頼の文化は、社内の全員が、日々心をこめて働きかけることによってのみ維持されるのだ。私たちの会社では、以下のような方法で信頼の文化の維持を心がけている。その多くは小さなことだが大事なことだ。

 • 決して嘘はつかない。例外はない。もし、秘密にしておかねばならないことがあるときはその理由を説明すること。
 • 常に「透明性」を心がけること。それは時に「弱みを見せる」ことでもある。
 • 悪いニュースは素早く共有すること。言い訳も、恥も、恨みもなく。
 • 何か問題がある時は、その当事者と話し合うこと。できればその人と二人きりで。面と向かって。そして尊重の念を忘れずに。
 • 他者を信頼する姿勢を常に見せること。
 • もし何か間違いを犯した時は、それを認めること。
 • 会社が社員に期待する「健全な行動」を明文化しておくこと。

「健全な行動」とは、例えば「品格をもって行動する」「嘘をつかない」「約束を守る」「利己的にならない」「知識に貪欲である」「称賛を惜しまない」「悪いニュースは必ず本人に伝える」「素直に謝る」などだ。

貴社の現状を吟味し、組織内の「信頼感」の度合いを査定してみることをお薦めする。信頼は企業力の礎となるものだからだ。

(注:この記事は、米スモール・ジャイアンツ・コミュニティのインタビュー記事に基づき、ダイナ・サーチが独自の視点や見解を加えて作成したものです)