本記事は、コア・バリュー経営協会会員向け記事として作成されたものです(2018年5月30日)。

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社員の尊厳を守る「辞め方」「辞めさせ方」
コア・バリュー経営では、個々の社員の人としてのWholeness(全人格)を尊重することが重要になります。社員を「資源」として見ると、辞められることが迷惑で不快なことのように受け取られますが、各個人を尊重して、ひとつのステージ(会社)から別のステージ(会社)へのトランジション(移行)を支援すると考えることによって、会社と社員の双方にとって価値ある体験が生まれます。

次の記事は、アメリカのスモール・ジャイアンツ企業であり、「働きたい会社」としていくつもの賞を受賞しているマーケティング会社の創設者による記事を、スモール・ジャイアンツ・ジャパンの見識と分析を交えて再編集したものです。

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「お話があります」

あなたが部下を持つ立場なら、この言葉を耳にするたびに、身が縮むような思いをすることだろう。ただちに、退職の相談だと思い、新しい人材を探す手間や時間のムダを考えて早くもうんざりしてしまう。

有能な部下が辞めていくのを喜ぶ人はいない。また、高い離職率は会社のために良いことではない。しかし、このプロセスが、辞めていく側と送り出す側のいずれにとっても高ストレスなものである必要はない。
事実、リーダーが、現状に満足していない社員が退職の意図や迷いをオープンに話せる環境をつくることができれば、それはよりハッピーでより健全は職場づくりにつながるだろう。

会社で大きな成果をあげる「Aプレイヤー(スター・プレイヤー)」が永久に会社に留まるかというとそうではない。むしろ、適正なタイミングで、適正な役割につけたからこそ、彼らは会社に多大な貢献をすることができたのだ。だから、社員はその「時」が過ぎ、会社にフィットしなくなった時に、会社を去っていくものだ。退職という形で去る人もいれば、身体は会社にいるけれども、心ここにあらずという人もいる。

辞めていく社員の尊厳を守ることで、予期せぬ退職につきものの苦い経験や痛みを回避できる。そしてその過程で、次に述べる四つのことを達成し、スムーズな移行を実現することができる。

1.良好な関係を保つこと
仕事や職場に不満をもつ社員や、エンゲージできていない社員が次のステップに行けるようサポートすることで、お互いにも不都合で不快な訣別を回避できる。仕事に身の入らない社員は会社にいることで時間をムダ遣いし、会社はお金をムダ遣いするのだから、道を分かつのは双方のために良いことでもある。
もし、会社を辞めた社員が同業者に雇われたなら、どこかで偶然鉢合わせることもあるだろう。また、いつかその社員が、業界の第一人者や見識者にならないとも限らない。そんな時に、昔のよしみで知恵を借りることもあるかもしれない。いたずらに敵をつくる必要はない。未来を予測することはできないのだから、辞めていく社員と良好な関係を築くにこしたことはない。

2.タイミングを計れ
新しい人材を見つけるのは容易ではない。何の前触れもなく突然辞められて、その引き継ぎにてんてこまいするならなおさらだ。辞めていこうとする社員と話し合い、そのタイミングを計ることで、新しい人材を探し、見つけ、トレーニングを施す時間や、周りの社員にタスクを引き継いでもらう時間を稼げる。そうすることによって、辞めていくほうも、送り出すほうもストレスを免れ、気持ちよく訣別できる。

3.知識のギャップを埋めよ
辞めていく社員は仕事を通して有形・無形の知恵を蓄えているものだ。気持ちよく辞めてもらうことにより、引き継ぐ社員にその知恵を快く、そして適切に伝授してもらうことができる。

4.「精神的退職」を未然に防ぐ
会社を辞めていく人よりはるかに大きな損害をもたらすのは、身体はそこにいるけれども、心ここにあらずという「精神的退職者」だ。人が尊厳をもって快く辞められるようにすることで、エンゲージしていない社員を会社にとどめておくことが引き起こす生産性の破壊を防ぐことができる。

ギャラップ社の2013年のレポートによると、「エンゲージメントの低い社員」が米産業に与えるダメージは年間5,500億ドル(55兆円)にものぼる。これらの「居残り組」は職場の資源を食いつぶしたり、また、仮病を使って会社を休んだりもする。
人が尊厳をもって会社を辞められるようにすることのメリットは明確だ。次に、会社や仕事に不満をもち、辞めたがっている社員をどうしたら前向きに「辞める」方向に転換できるか、そのためにはリーダーであるあなた自身がいかに意識を変えるべきかについてお話しよう。

尊厳をもって会社を辞めてもらうには
私(筆者)の会社には「マインドフル・トランジション(心ある退職プロセス)」と呼ばれるプログラムがあり、オープンなコミュニケーションを奨励するとともに、社員の退職にどうアプローチするかを明確に定めている。その中のベスト・プラクティスには次のようなものがある。

■フィードバック・ループをつくる:誰でも、自分の話を聞いてほしいと思っている。「何かフィードバックはありますか」とただ質問するのではなく、常に耳を傾ける姿勢をアピールし、意見をくみ取る努力をすることが必要だ。すべてのフィードバックが大きな改善を生むとは限らない。フィードバックの多くは小さなものだが、それでも、現場の声はかけがえのないものだ。また、フィードバックを受け取ったという意思表示をし、何らかの形でそれに対処することは、「話を聞いてくれる人がいる」という安心感や満足感を社員に与える。

■「タブー」をつくらない:社員が安心して、職場での不満・不安や、迷いや退職の意図をオープンに話すことのできる環境をつくることが必要だ。迷いのある社員が、「この職場は、私には向かないようです」と正直に、気軽に言えるようにすること。それが、実りある対話につながる。

■結論を急がない:退職が唯一の解決策ではない。現状に不満をもつ社員が、所属部門・部署や職種を変えることで、自分の居場所を見つけられることもある。他の管理者や人事部と相談して、辞めたがっている人にフィットする役割や職種がないかを検討することが状況の好転につながることもある。

■退職に伴う両者の「期待」を管理する:もし、「退職」が最善の解決策だと合意したなら、当事者である社員と相談し、退職までのプランを策定することが必要だ。そのプランの一環として、もし退職する社員が休みをもらったり、早退をしたりして面接に行かねばならない場合に、その便宜を図ってあげることも必要になる。しかし同時に、辞めていく社員への期待も明確にしなくてはならない。できれば、会社が何をしてほしいのかを文書化すること。辞めていく社員は仕事の質をキープし、求職活動の経過をオープンにし、そして、出社最終日を明確にしておくべきだ。退職予定者が辞めていくまでのプロセスについて会社が柔軟な姿勢で臨むのと、辞めるのかどうかをあいまいにしておくのとの間には大きな違いがある。

すべての人が会社に「合う」わけではない、と公に認め、それをよしとすることで、社員の対話の質が変わる。社員が会社や仕事に対する不満・不安、そして迷いをオープンかつ正直に話せると感じれば、会社と社員の双方にとって良い結果をもたらす「次のステップ」について前向きな話し合いを始めることができるというものだ。

*注:本記事は、米スモール・ジャイアンツ・コミュニティによるインタビュー記事に基づき、ダイナ・サーチが独自の視点や見解を加えて作成したものです

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