会社とその中で働く人たちとの関係を、ただ単に「会社と社員」の関係として捉えてしまうと、規則や階層がどうしても前面に出てしまいます。会社と社員は契約で結ばれた関係であり、会社は社員の時間をお金で買う、そんなメンタリティからは、創造性や超越したサービス体験は生まれません。

また、「部下と上司」という関係性においては、「ヒエラルキー」が何よりも大きな影響要因になりがちです。「自分の意見には反するけれども、命令だからやる」「良いアイデアがあるけれども、自分は提案する立場ではない」。このような社員の内なるつぶやきに耳を傾ければ、最高の成果や組織の成長にとって、階層の仕組みがいかに大きな妨げになっているかがわかるでしょう。

会社はお金を儲けるところであり、社員にとってはお金を貰うところであり、それだけだ、と考える人が集まる組織に未来はないでしょう。単純に計算しても、たいていの人は起きている時間の大半を会社で過ごしています。家族、友人、教会、町内会、あるいは趣味のサークルなど、人によっていろいろな「コミュニティ」に属していますが、人生の充実を目指すためには、自分というものを置き去りにして一日8時間を「犠牲」にする職場ではなく、自分という人間に与えられたありたけの能力を発揮し、周囲の人ともわかりあい、つながりながら働ける職場を志すべきだと思います。

それは、経営者だけでなく、働く人一人ひとりに課された選択であり、責任なのです。

ザッポス社CEOのトニー・シェイは、著書『Delivering Happiness(邦題『ザッポス伝説』)』の中で、人が幸せを感じるために必要な条件のひとつとして「つながり」を挙げています。よく言われることですが、人間というのは社会的動物であり、機能的そして感情的な意味での「一人で生きていく」ことは不可能です。たとえ、一生かかっても使いきれないような莫大なお金があったとしても、「私は人の役に立っている」「私は必要とされている」「喜びも悲しみも分かち合うことができる人がいる」と実感することができなければ幸せを感じることはできないでしょう。

企業は人の集合体です。企業という組織の中で、その構成員の一人ひとりが周囲の人たちと「つながっている」と実感できるかどうか、自分が周囲の人の役に立っていて、その価値が認められていると感じられるかどうかが第一の前提となりますが、その他に、企業として「社会の役に立っている」「社会とつながっている」という実質的な認識があるかどうかが、今後、企業の健康を測る上で無視することのできない指標になってくるでしょう。

だからこそ、「自社の提供する商品やサービスが社会にどんな価値をもたらすか」、言い換えれば「会社の存在意義」を明確に定め、構成員全員がそれを共通理解することがもちろん必要なのですが、社会生態系の中に住む「会社」という生命体として、周りにどんな貢献をしているのかということが極めて重要になってくるのです。

つまり、社員の目に一番見えやすい、そして、社員が実質的に関わりやすい、実感しやすい方法として、会社が地域社会とどう関わりあい、より良い未来に向けてどう働きかけていくかが、企業の成長戦略の一環として欠くことのできない要素になってくると思います。

記事/ダイナ・サーチ、インク 石塚しのぶ